一話
黒、それはこの世に存在する全ての色をのみ込んでしまう色。
男が透きとおる様な瞳で見つめる墓石は冷たく、膝まづく男を拒絶している様だった。
項垂れながらそっと握りしめたのは、陽を受けて鈍く銀色に輝く指輪。
「残された命が少ないの…」
残り数ヶ月の命と聞いた男は、病床に伏せる女を憐れみ、その女と運命を共有しようと決意したのだった。
しかし―――――男の手からこぼれ落ちた指輪が、男の悲しみを
『こんな皮肉なことが起きるなんて…』
芝生の上に転がり落ちるとそっと、語り出した。
「この世の中の全てがいや…終りの日を静かに過ごしたいの…」
ベッドに伏せった女が男をじっとみつめると、低い声で、が、決意をしたかのような強い意志を感じさせる声音で言った。
女の思いに飲まれたように男は無言のままその手を握り返すと、女の希望を叶えてやりたい一心から女の望む、高台に建つ赤い屋根の小さな家で暮らし始めたのだった。




