お互いに
「その手を離せ!!糞野郎!!」
聞いたことのある声が近くでした。
「誰だい?初対面で糞野郎呼ばわりとは、君、大人を舐めちゃいけないよ?
でないと、痛い目を見ちゃうよ?」
男の口は相変わらずニヤついているが、顔が笑っていない。
怒っているようだった。
「はぁ?小せぇガキの腕掴んで、引っ張ってどこかへ連れていこうとしてる変人を糞野郎呼びしちゃおかしいかよ?」
少年は強気で男を挑発する。
「っ!!この糞ガキ!!」
男は私の腕を乱暴に振り払い、少年に殴り掛かろうとした。
少年は不敵にニヤッと口元を歪ませ、難なくそれをかわし、みぞおちに一発拳を御見舞した。
男は顔を歪ませて苦しがっていたが反撃しようとしたところを再度、次は顔面に拳を食らい、怖気付いてどこかへ逃げていった。
何故私を助けたの?
分からない。
私のこと、嫌いでしょ?
分からない。
沢山のことが理解出来なくて、地面に力なく座ったまま俯き、考える。
少年ーー高人が何故ここにいるのか……?
「おい、てめぇ。なんで家にいねぇんだよ!?」
ビクッ
返事、しないと。でもなんて返したら?喋っていいの?分かんない!分からない!どうしたらいい!?
「1人で帰れるって頷いたじゃねぇか!」
頷くことしか知らない。どうしたらいい?分からない!分からない!
高人が近づく。
「なんで逃げない。やり返さない。喋らない。」
え……?
「喋らねぇとわかんねぇだろうが!
なんでここにいるのか、喋れ!あとボロボロになってる理由も!」
喋れ……喋ってもいい、の?
困惑していると、高人は軽くしゃがんで私に目線を合わせてくる。
「ぁ……ぅ…かぇ、ろうと……したけれ、ど。」
何年ぶりに声を出しただろう。いや、初めてかもしれない。
だから上手く喋れない。
でも少しずつ、少しずつ言葉を繋ぐ。
「ぃじめ…られ、て。。痛くて……かぇれな、くて…」
つたない私の言葉を辛抱強く聞いてくれる。
「そした、ら。ひと…がきて…ゎかんな、くて。」
上手く言えただろうか。そもそも喋っても大丈夫だったのだろうか。
沢山不安が溢れる。
「なんで、やり返さなかった。」
高人は私の言葉を聞き、再度質問した。
どう返答したらいいのか困っていると
「なんで、一人で帰れるって頷いた。」
それは、「頷く…ことしか、分からない。」
「私は……悪魔。だから、拒否…喋っちゃ。だめ。おかぁさん、もいない。
存在、価値は…0、それ以外……なに、も、分からない。」
高人は私のこの言葉を聞いて静かしていた。
でも、さっきまでしていた怒りの雰囲気がいつの間にか消えていた。
「お前は、誰も頼れる奴がいないのか…?」
コクリ。
「もし、頼れる奴がいたら、お前は助けを呼ぶのか?」
コクリ。
「お前は、俺を必要としてくれるか?」
え……
「俺がお前の傍にいれば、俺に助けを求めるようになるか?
俺に…そばにいて欲しいと、必要だと、言ってくれるか?」
あぁ、きっと、この人は求めているんだ。
そして、私も。
…………コクリ。
高人が私の頬に、優しく触れた。
温かい。
初めて、私に心をくれた人。