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学園の神聖ヒロインとなし崩し的同居生活!  作者: 坂井ひいろ
第三章 同居生活を守れ
49/49

049 はい

三洋みひろのお父さんとお母さんが戻ってくるの?」


みなみのやつから連絡があった」


「たいへん、たいへん。お掃除しなきゃ」


 私立開南学園高校では学園の神聖ヒロインと呼ばれ、クールビューティが売りの八島鈴やしま れいが制服にエプロン姿、スリッパをパタパタさせながら慌てふためく。


 無防備すぎる彼女の様子が可愛いと古谷三洋ふるや みひろは見惚れてしまう。なまじ美人ゆえに学園では周囲が期待する人物像を演じてしまう彼女の素の姿を見られる幸福に浸る。


「古い家だから適当で良いんじゃないか。とことんやっても新築には戻らんぞ」


「三洋!違うでしょ。古い家だからこそ、きれいにしとかないと」


 掃除機かけにモップかけ。髪の毛一本見あたらないくらいピカピカに磨き上げる。そこに泥だらけのクロマルが帰宅して足跡をつけて回る。


「こっらっ!クロマル」


 モップを持ったままクロマルを追っかけるおてんば娘の八島鈴。逃げ惑うクロマルはさらに足跡を増やしていく。


 うーん。三流コントを見ているみたいだ。最近は癒し系のほのぼの動画を見なくなったのはこのせいかと、三洋はそれを目で追う。


「三洋!帰ったぞ」


 玄関から父の声が響いてきた。クロマルを追っていた八島鈴の足がパタリと止まる。


「おっ、親父だ。南のやつ。騙したな。帰宅は明日だって・・・」


「三洋。いないの」


「いるけど、色々とあるみたいよ。うふふ」


「母さんと南の声だ。鈴、とにかく掃除機とモップを片づけてくれ。僕は三人を出迎えてくる」


「父さん、母さん、南。今、行くから」


 三洋はリビングに鈴を残して玄関に向かった。


「お前は誰だ!」


 見知らむ顔が、いきなり家の奥から現れたものだから身がまえる三洋の父。


「やだなー。父さん。僕だよ。三洋だよ。まさか息子の顔も忘れたとか?」


「三洋、髪の毛を切ったんだね。うん。ずいぶんと男前になったわね」


 うんうんと頷く三洋の母。さすがは母親だ。息子の素顔くらい知っていたか。妹ほど驚いている様子もない。


「ああ、ちょっとね。色々とあって。それより紹介したい人がいるんだ」


「お兄ちゃん。彼女ができたんだってさ。彼女ができたらお兄ちゃんみたいなボンクラでもイケメンになるんだから世の中わからないよねー」


 妹の南がニタニタ顔で付け足した。


「南、うるさいぞ。リビングに待たせているから」


 そう言って、三人を引きつれて戻る。


 扉を開けるとダイニングテーブルの椅子に八島鈴がチョコンと座っていた。足元にはクロマルがこれまたチョコン。どちらの顔も緊張で引きつっている。借りてきた猫?って一人は人間だけど・・・。


「あらやだ。女神様が我が家に・・・」


「お母さん。我が家は仏教でしょ」


 母親に突っ込みを入れる南。


「そうだったわ。じぁあ、お釈迦様」


「釈迦は男だったような」


「かあさん!南!あのなー。そう言う話は後にしてくれ。えっと、僕の彼女の八島鈴さん」


「八島鈴です」


 ぺこりと頭を下げる彼女の足元で、何故かクロマルも頭を下げる。クロマル・・・、お前、言葉が理解できるのか!などと驚いているのは癒し系動物動画に慣れ親しんだ古谷三洋だけだった。


「お兄ちゃん達、この家で同棲しているんだよ!もうラブラブなんだから。私が帰ったこの間なんて、膝枕にソリソリ・・・。ぶへへへ。もう、見てらんないよね」


 得意顔で説明する南。話し出したら止まらない。あることないこと、パンパンに膨らんだ中学生の妄想がはじけまくり口をついて出る。


「みっ、三洋。本当なのか!」


 信じられないと言う顔で絶句する父親。


「三洋。あんた、よくまあこんな天女みたいな子を・・・」


 変な落としどころを見つけた母親。とにもかくにも、初顔合わせは終わり、五人でダイニングテーブルに座った。


 固まる両親と気の利かない妹をよそに、鈴は慣れた手つきでお茶をいれて茶菓子を並べた。もう、どっちがゲストで、どっちがホストか分からない。


「父さん、母さん。南の言う事はほぼ妄想だけど、事情が重なって、一緒に暮らしている。鈴のご両親にも許しを貰っている」


 三洋の父は険しい顔になる。


「三洋。そういう問題じゃないだろ。高校生とはいえ、もう立派な大人だ。他人の家のお嬢さんと暮らすと言うことは、責任を取る覚悟はあるんだな」


「父さん。もちろんです」


 三洋は父の顔を正面から見つめて目を逸らすことなくキッパリと告げる。


「そうか。お嬢さんはそれでいいのか」


 今度は矛先を八島鈴に向ける。


「はい」


 鈴は短い言葉の中に強い意志をこめる。その凛とした顔立ちに一同が見入る。さすがに三洋の父も敵わない。


「母さん。悪いが赤飯を炊いてくれ」


 三洋の父はようやく緊張した顔を解した。


「赤飯?あなた、古臭いわね。もち米なんて用意していないわよ。今、買いに行ってくるから」


 席を立とうとする母を三洋はとめる。


「母さん。ちょっとまって。話が終わっていない」


 腰を浮かしかけた母親が座り直す。


「父さん、母さん。鈴の家は病院を経営している。正直、僕なんかとは不釣り合いな家庭に育っている。僕は彼女を幸せにしたい。鈴と相談したけど、正直、僕には医者は向いていない。だから、来年、司法試験予備試験を受けることにした。合格したら鈴と結婚することを許可してください」


 三洋は父の前で生まれて初めて深々と頭を下げた。


「お願いします」


 鈴が後に続く。二人は来年十八歳になる。結婚できる年齢だ。幼なじみの工藤瑞穂くどう みずほとの一件に決着をつけた日、三洋は鈴にプロポーズしていた。


 鈴の左手薬指にはめられた婚約指輪の小さなダイヤの欠片がキラリと光り輝いた。






おしまい。

・最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 皆様のご支援と励ましで書き終えることができました。

・このお話を応援したいなーって思う方がいらっしゃいましたら、

 ブックマークを外す前に、ご評価を付けていただけたら嬉しいです。

 なにとぞよろしくお願いします。

・お時間の取れる方はご感想などをいただけたら、とても嬉しいです。


 坂井ひいろ

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