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学園の神聖ヒロインとなし崩し的同居生活!  作者: 坂井ひいろ
第三章 同居生活を守れ
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033 してやったりのドヤ顔のデブ

「今まで連絡一つ寄こさないで、どう言う事ですか!」


 八島鈴やしま れいのスマホを受け取り、彼女の父親に向かっていきなり怒鳴りつける山根浩二やまね こうじ。野太い声が星宮花蓮ほしみや かれんの家のカラオケルームに響きわたる。


 突然の大声に震えあがる古谷三洋ふるや みひろは一人でオロオロしだすしまい。八島鈴と星宮花蓮はキョトンとしている。


 ぐおっ!山根のやつ。ヤクザみたいな声を出して心臓が止まるかと思ったぞ。こいつに任せて本当に大丈夫か。いけ好かない父親らしいが、そうは言っても八島さんの唯一の肉親。心配になってきたぞ。


 山根はこっちを向いてニカッと笑い、スマホをスピーカーモードに切り替える。


「貴様は誰だ。娘をたぶらかしたのはお前か!」


 八島さんのお父さんも負けていない。山根のような怒鳴り声ではないが、大人の貫録が漂ってくる。まがりなりにも八島病院の院長をしているだけのことはある。


「八島さんのお父さんですか?お父さんには、未成年の父親としての、自覚があるのですか!」


 今度は声のトーンを落として言葉を区切りながら話し出す山根。デブの険しい顔に、こっちがビビりそうだぞ。


「どう言う意味だ」


「風邪をこじらせて体調を崩した八島さんを介抱してあげた俺の友達は、八島さんの母親になんて言われたかご存知ですか?」


「・・・」


 電話の向こうで口をつぐむ八島さんのお父さん。ヒソヒソと誰かと話している声がする。恐らく近くに継母がいるに違いない。


「義兄さんの受験勉強にさわるから返してくれるなと言われたんですよ!自由にできるお金を持たせているから勝手にしろとまで。それが社会的な地位を持った人のすることですか」


 山根がスマホに向かってたたみかける。電話の向こうで何だか甲高い声で騒いでいるのは八島さんの母親か?あの時の事を思い出して少しムカつく。


「困って電話してきた俺の友達、古谷に児童相談所に連絡しろとアドバイスしたから、そろそろ連絡が行ってませんか?」


 げっ!何を言い出すやら。そんなことはしていないぞ!


「じっ、児童相談所に連絡したのか・・・」


 電話口で慌てふためく八島さんのお父さんの姿が目に浮かぶようだ。継母がフォローしている。声をひそめる気がないのか会話の内容がマイクを通して筒抜けだ。


「お前、帰してよこすななんて言ったのか」


「汚い子猫を拾って来たのよ。和人かずとに変な病気でもうつったら困るでしょ。あなたがちゃんと鈴ちゃんに大事な時期だって言って聞かせないからでしょ!」


 八島さんのお父さんに逆ギレする継母。あの時と同じで気が強い。


和人かずとの受験も大事だが・・・。児童相談所はマズい。マスコミにでも騒がれたら大変だ」


痴話喧嘩ちわげんか何て聞きたくないです。古谷、ちゃんと児童相談所に連絡したんだろうな!俺は警察にも連絡しろと言ったぞ」


 俺にふるのか?山根。マジ、止めてくれ。


「けっ、警察もか」


「当然じゃないですか。古谷は家族の転勤で独り暮らしなんですよ。未成年が年頃の女の子を預かれる訳ないですよね」


 山根が僕の方をみてピースサインを出す。


「古谷、どうなんだ!」


 そんなことを言われても答えようがない。


「何!古谷、連絡していないのか。何やってんだよ。これだからお前は甘いって言うんだ。


 何々。星宮先輩に連絡して八島さんを介抱してもらっただと」


 スマホに向かって山根の一人芝居が続く。電話の向こうから安堵あんどのため息が聞こえてくる。


 星宮先輩はクスクス笑いが洩れない様に口を押えている。八島さんと僕は口をポカンと開けて事の成り行きを見守るしかない。


「成程、それで女子の先輩を呼んだのか。星宮先輩なら私立開南学園高校の生徒会長をしているし人望も厚い。彼女がいれば問題ないな・・・。


 うんうん、そうか。それなら男子と女子の二人っきりでもないし、世間も騒がない。俺もいるしな。ふー」


 山根はワザとらしく大きなため息を漏らしてから、スマホに向かって告げた。


「と、言う事だそうです。八島さんのお父さん」


「鈴は男と二人っきりじゃ無かったんだな」


「そのようです」


「鈴に代わってくれ」


 山根は素直に八島さんにスマホを渡した。


「私、帰らないから!」


 八島さんはキリリとした顔でキッパリと告げる。


「何をバカなことを!」


「お父さんは仕事ばっかりでしょ。私がどんなに悩んでいたか知りもしないで。そこには私の居場所なんてないから」


「鈴!子供みたいなことを言うんじゃない」


「私はまだ子供だよ」


 山根がスッと八島さんの手からスマホを奪い取る。


「お父さん。どうでしょう。このまま八島さんを帰しても彼女の気持ちも収まらないし、また喧嘩して飛び出したら、今度は本当に変な男につかまらないとも限らない。


 俺と生徒会長の星宮さんが保証しますから、八島さんを古谷の家に居候することを認めてあげられませんか?」


「世間が黙っているとは思えん」


「お父さん。学校では古谷と八島さんはいとこ同士ということになっています。なっ、古谷、そうだろう。学校もそれで納得していますし、今更違うと言うのも波風が立ちます。一度こちらに来てお話しませんか」


 山根は事務的な口調で星宮先輩の家の住所を告げ、一方的に電話を切った。


 こっ、ここに呼んだのか?この大豪邸に・・・。何をするつもりだ、このデブは。してやったりのドヤ顔のデブ、大胆過ぎる。山根財閥御曹司に驚かされっぱなしだ。


 星宮先輩は口を押えるのを止めて大声で笑いだした。先輩がこんなキャラだったなんて・・・。人は見かけじゃないと思い知った古谷三洋だった。

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