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学園の神聖ヒロインとなし崩し的同居生活!  作者: 坂井ひいろ
第二章 二人の学園生活
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029 美少女、言うな!

 古谷三洋ふるや みひろ八島鈴やしま れいと同居するはめになった経緯を山根浩二やまね こうじに語った。


「なるほど。お前らしいな。子猫と一緒に八島さんを拾ったか」


「びしょ濡れの上に行く場所もないのだから、ほっとけないだろが」


「でっ、事情は分かったがどうなんだ?」


 山根は少しばかり難しそうな顔をする。


「どおって、なにがだ?」


「だから、このまま彼女と暮らしていきたいかってことさ」


「一戸建てで独り暮らしだから部屋は空いている。八島さんがいたいというなら特に困らないが」


「そうじゃないだろ。彼女の気持ちは見ていればわかる。古谷がどう考えているかだ」


「僕が?」


 ふと、幼なじみの工藤瑞穂くどう みずほの顔が思い浮かぶ。くっ。こんな時にか。いや、こんな時だからか。


「ああ。俺達、高二で未成年だぞ。現実的に考えたって高校生の男と女が一つ屋根の下で暮らすなんてことは、世間が許さないだろ。お前、自分の親にどう説明するんだ」


「親かー。帰ってこられたら困るな」


「だろう。古谷のことだから、どうせ八島さんに手を出すような勇気もないんだろうが。でもな、世の中はそんなふうに思ってはくれないぞ」


「学校に知られたらマズいことくらいは了解している。だから山根に包み隠さず話したんじゃないか。協力してくれ」


「子供だな。停学や退学だけで済むと思うか。八島さんの父親次第では警察沙汰だぞ。誘拐犯扱いだ」


「脅すなよ」


「それ位、親の親権ってのは強いってことさ」


「・・・」


「しかし、その格好で青くなられてもな。古谷、お前、女の子だったら良かったのにな。女子二人の同居なら誰も文句は言わんだろ」


「ちゃかさないでくれ。僕が穏やかな暮らしを望んでいることは知っているだろ」


「なら八島さんをとっとと家に帰せ。なし崩しで同居したって良いことないぞ。普通に生活していたって高校生らしい恋愛ぐらいできるだろ」


「・・・」


 山根の言う事はもっともだ。僕が八島さんに押し切られずに、ちゃんと彼女に帰るように説得していれば・・・。優柔不断な僕に責任がある。だけど・・・。


「一つ聞いていいか」


 山根の顔が真剣になる。体格が体格だけに、ちょっと怖いくらいだ。


「・・・」


「古谷。お前、八島さんを手放したくないくらい好きなのか。命がけで愛していると誓えるのか。俺の見立てでは、八島さんはとっくに覚悟した上で、お前と暮らすことを選んだんじゃないかと思う」


 僕はステージの横に座る八島さんの方をみる。不安そうにこちらを見ている顔は今にも泣き出しそうだ。学園で神聖ヒロインと呼ばれる、キリッとした強さがまるで感じられない。捨てられた子猫みたいな顔をしている。


 それなのに・・・。幼なじみの顔をモニターで見ただけで動揺する僕。何て情けない。男だろ、古谷三洋!逃げているんじゃねーよ。


 僕だってもうとっくに知っていた。自分の気持ち・・・。つり合いっこないとか、どうせまた工藤瑞穂の時のように愛想をつかされてしまうんじゃないかとか。


 言い訳を積み重ねて、穏やかな暮らしがしたいとうそぶく僕。女々しすぎるぞ。なし崩しで始まった同居生活でも、僕は八島さんに側にいて欲しい。彼女が側にいると心が和む。彼女のことが本気で好きだと山根に気づかされた。


「八島鈴を離したくない」


「ようやく本音が出たな。古谷がイケメンになる位だものなー。お前はその顔を選んだ時点で、八島さんとは離れられないってことさ。しかしまあ、美少女顔にされるとは思わなかったが・・・」


「美少女、言うな!僕だって何でこんなことになったのか」


 山根はようやく何時ものように豪快に笑った。僕もつられて笑う。


「後先考えないで行動できるのも未成年の特権だ。俺も星宮花蓮ほしみや かれんとの関係をそろそろちゃんとしないとな。戻るぞ古谷。お互い男らしくならんとだな」


 山根の大きな手が僕の背中を力いっぱい叩いた。背中がジンジンする。スカート姿は心もとないが僕は心を決めた。


「山根。僕、八島さんに告白するから」


「俺が花蓮に言うのが先だ。古谷はまず格好だけでも男に戻ってくれ。落ち着かん。しかしまあ、お前さー。メチャかわいいぞ。見つめられると心を奪われそうだ」


 このデブ!ニタニタすんじゃねーよ。


「気持ち悪いからやめてくれ」


 僕は山根から目を逸らすのだった。

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