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学園の神聖ヒロインとなし崩し的同居生活!  作者: 坂井ひいろ
第二章 二人の学園生活
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027 初恋と友情は終わった

 古谷三洋ふるや みひろは巨大モニターに映し出される工藤瑞穂くどう みずほの姿を見つめていた。星宮花蓮ほしみや かれん先輩の歌声が耳をすり抜けていく。


 保育園からの幼なじみの彼女が大阪に転校して、一年半以上がたっている。それでも懐かしいその顔は以前と全然変わっていない。


 僕の知らない間にアイドルになっていたとは・・・。元気でやっていることを知れただけでも幸運と言えば良いのだろうか。手の届かない存在になってしまった彼女。


 もう、昔の関係なんか・・・。僕のことなんて忘れてしまったのだろうか。一度も連絡をくれないのだから。彼女との最後の時間が走馬灯のように脳裏を廻る。


 夏休みも終わりに近付いたその日、工藤瑞穂は僕の家を訪れた。どうせまた夏休みの宿題が終わらずに、いつものように泣きついてきたんだと思った。


 瑞穂はスポーツはできるが勉強は今一つ。天真爛漫で自由奔放なのは良いが、ズボラでルーズな性格で計画性の欠片もない。


「三洋!部屋にいるの?」


 階段をパタパタと駆け上がってくる。


「瑞穂か。宿題なら教えないぞ。自分でやれ!」


 僕はいつものようにベッドに寝転び、スマホで癒やし系の動物動画を観ていた。そのまま、無遠慮に僕の部屋のドアを開けて飛び込んでくるかと思ったが、ドアの前で立ち止まる。


「どうかしたか。入れよ」


 スマホの動画を止めて声を掛けてみる。


「あのね。ちょっと大事な話があって・・・」


「そうか。宿題は教えないが、話しなら中で聞くぞ。遠慮しないで入って来いよ」


 ドアの影から、茶色がかったショートヘアの女の子が顔を覗かせる。日焼けした健康的な肌。少し童顔の瑞穂は夏少女といった感じだ。背が低めで胸がないから小学生に間違われることがある。


「うん」


 彼女は僕が寝ころぶベッドの隅にチョコンと座る。


「真っ黒だな。もう中三なんだから遊んでばかりいないで受験勉強でもしたらどうだ」


「三洋は真っ白すぎるよ。女の子みたい」


「うるさい。余計なことはいいから大事な話って何だ?」


「うーん」


 瑞穂は、少し言いにくそうに口をモゴモゴさせてから、確認するかのようにポツリと切り出した。


「三洋と私は保育園からの幼なじみで、友達だよね」


「何だよ、いきなり」


「親友だよね」


「腐れ縁だな」


「三洋・・・。私のこと好き?」


 ジト目で見上げるように覗き込まれても。


「ああ、気心が知れているからな」


「そうじゃなくて。私を女の子としてどう思っているの?」


「ふざけてんのか。何度も言うが夏休みの宿題くらい自分でやれ」


「宿題はもういいの・・・」


「開き直るのか。信じられん」


 呆れて言葉にならない。ズボラもここまでくると立派な病気だぞ。少しばかりムスッとなった。


「三洋は来年、開南学園高校を受けるんだよね」


「ああ、近所だし。大学受験に有利だからな」


「私は無理だなー。頭、悪いし」


「そんなことないだろ。小学校の頃は全然僕より勉強ができたぞ。地頭は悪くないのに、怠け者なだけだ」


「私がいなくなっても、三洋はちゃんとやっていけるよね。頭のいい子が集まる学校に行って、友達とか彼女とか作って私のことを忘れるんだ」


「そうだな。怠け者の面倒なんて見ていられない」


「そうだね。私が三洋の側にいたら迷惑だよね」


 少し気合いを入れようとしたら拗ねやがった。


「ねっ、キスしてよ。一生の思い出にするから」


 瑞穂が瞳を潤ませて口を突き出してくる。


「できるか!瑞穂、お前、何か変だぞ」


「私ね、三洋とはお別れしなきゃ。三洋の足手まといになりたくない」


 彼女の大きな瞳からボロボロと涙が零れ落ちる。


「学校が違うくなったって、僕と瑞穂が幼なじみなのは変わらないし、親友だろ。家だって近いし、いつだって会えるぞ」


「もう、会えないの。私、夏休みが終わったら大阪に転校するから」


「何だよそれ。そんな大事なことを黙っていたのか。ふざけんなよ。親友だろ・・・」


 何でだよ。夏休みの終わりって・・・。もう何日もないじゃないか。


「私は・・・。私は三洋の親友なんていやなの。彼女になりたかったの」


「ぼっ、僕だって・・・。瑞穂が好きだ。初恋なんだ」


 勢いで言ってしまった。ずっと心にしまい込んでいたのに。


「ムリしなくていいから。三洋は顔も頭もいいし、私、どんどん置いてきぼりになるんだもん」


「ムリなんかしていない。大阪に行っても連絡をくれるだろ。待っているから・・・。ずっと待っているから」


 涙で視界がぼやけてくる。


「だから、待ってなんか欲しくないの。三洋には前を向いて進んで欲しいの。さようなら、三洋。もう、会うこともないから」


「待てよ。連絡先くらい教えろよ」


 立ち上がって部屋を出ようとする瑞穂の腕をつかむ。瑞穂の腕、こんなに細かったっけ。


「私は三洋に女々しく生きて欲しくないの。じゃあね」


 工藤瑞穂は古谷三洋の腕を振り切って、走るように部屋を出て行った。


 こうして僕の初恋と友情は終わった。取り残された僕は勉強だけをして暮らした。私立開南学園高校に進学した僕は、更に髪を伸ばして自分の殻に閉じこもった。


 僕を引っ張ってくれる幼なじみの工藤瑞穂を失った痛手で、幼いころの本性が表に出てきた。女々しくて、あがり症。直ぐに顔が赤くなったり青くなったりする。僕は瑞穂にさんざんバカにされた性格に戻ったのだった。

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