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学園の神聖ヒロインとなし崩し的同居生活!  作者: 坂井ひいろ
第二章 二人の学園生活
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025 とんでもない暴露話

 古谷三洋ふるや みひろ八島鈴やしま れい山根浩二やまね こうじ星宮花蓮ほしみや かれんの四人は放課後、カラオケルームにきていた。


 二十畳以上ある広々としたワンルームに百インチ越えの巨大モニター。グランドピアノにドラムセットまで置いてある。最新式のカラオケ機器はもちろん、回転式のステージまで・・・。


「あのー、星宮先輩。ここがカラオケルームなんですか?」


 古谷三洋は完全に騙されたと思っている。カラオケと言えば駅前辺りのビルで小部屋が幾つもあるのが普通だ。ってか、ここ星宮先輩の家だし。


 学園から駅へと続く道を反れて、僕の家へと続く小道に入ったあたりで気付くべきだった。通学途中でカラオケルームなんて見かけたことがない。


 それにしても、公園の横の豪邸が星宮先輩の自宅だったなんて・・・。全く知らなかった。


「そうよ!カラオケセットも目の前にあるし、誰がどう見たってカラオケルームでしょ!」


 僕は山根の顔をうかがう。山根はバツが悪そうに顔をそらした。八島さんは楽しそうにあちこち見て回っている。


「で、ここがフィッティングルーム。奥のウォークインクローゼットに衣装があるから好きなものを選んで」


 星宮先輩がニコニコしながらステージ横のカーテンを引いた。


「いっ、衣裳部屋もあるんですか・・・」


 屋敷の大きさからすれば星宮先輩の家が並々ならない金持ちであることは理解できたが・・・。一般の個人宅にあるようなものじゃない。マジかよ!


「すごい!本格的だ。アイドルグループの衣装からアニメのコスプレまで、本物みたいです」


 テンションが上がりまくる八島鈴。学園の神聖ヒロインと呼ばれるくらいの美少女だからなんだって似合うに違いない。


 色々と想像してしまう僕。顔が熱くなってあげられない。理性がぶっ飛ぶだろ。


 それにしても、クールビューティーだと思った学園の才女にしてマドンナの星宮花蓮、イメージギャップがはなはだしい。透明感のあるおしとやか系メガネ美人に、こんな趣味があろうとは・・・。


「八島さん、失礼ね。本物みたいじゃなくて全て本物よ。ハロウィンの安物なんかとは全然違うでしょ」


 メガネのフレームをクイっと上げる星宮先輩。既に何かのキャラが憑依ひょういしているような・・・。


「うん。生地もいもしっかりしてますね」


「当然よ。私はこういう所は手を抜いたりしないの。徹底的にこだわり尽くしたわ。八島さんはどれを着る?」


「先輩。もう、いっぱいあって選べないから一緒に選んでください」


 盛り上がる美少女二人は、楽しそうにそろって衣裳部屋に消えた。取り残された男子、僕と山根。


「山根!カラオケルームが星宮先輩の家だって知っていたのか?」


「はじめてきたが、これ程とは知らなかった」


「星宮先輩の家はメチャメチャ金持ちだぞ。山根、玉の輿だな。一体どうやって知りあったんだ」


 失礼なのはわかっているけどニヤニヤが止まらない。山根は肩をすぼめてから、言いにくそうにぼそぼそと語り出した。


「山根財閥!って、あのデパートとか、鉄道とか、リゾートホテルの・・・」


 開いた口が塞がらない。ウソだろ!なんでそんな、おぼっちゃまが私立開南学園高校にいるんだよ。


 目の前のデブが、よりにもよって山根財閥の御曹司おんぞうしだと。まるでイメージがついていかない。


 学食のおばちゃんの大盛ラーメン命の山根が・・・。山根を抱き込むために買い与えた百円のシュークリームの意味ってあったのか・・・。


「と、言う事だ」


 星宮先輩の許嫁となった経緯を語り終えた山根は、大きな体を丸めてフーっとため息をついた。


 くっ。なにが『と、言う事だ』!騙しやがって・・・。メチャ、腹が立つんだけど。


「なあ、古谷。俺はお前がうらやましい」


「はあっ。僕のどこがうらやましいんだ。なんだってできて、なんだって手に入るお前に言われたくない」


「わかっただろ。花蓮が求めているのは俺じゃない。俺の境遇きょうぐうだ」


 デブは悲しそうな顔を浮かべる。


「俺なー。生まれた時から友達と呼べる奴が独りもいなくてな。


 俺の家のことを知っている奴ら、俺の側に集まってくる奴ら。みんな嘘くさい顔でほほ笑むんだ。


 だれも本当の俺なんて見ようとしないくせに、上手く取り入れば良いことがあるんじゃないかとすり寄ってくる。


 たくさんの取り巻きに囲まれていても、俺はずっとボッチだった。


 だから自ら選んでボッチとなり、自由気ままに生きている古谷がうらやましかった。カッコイイとすら思った」


 山根の気持ちはわかる気もするが・・・。そんなんじゃ、前に進めないだろ。って、ヘタレでボッチな僕が言う事ではないが。が、なぜか腹の虫が収まらない。同情なんかしてやるもんか。


「デブ!デリケートすぎるぞ。


 世の中のほとんどの人間が欲したってかなえられない恵まれた境遇に生まれておきながら言う事か。


 星宮先輩の指を見ただろ。あれは、よこしまな思いで山根のお弁当を作った指じゃない。


 味わいもせずに口に放り込むお前は気づかなかったかもしれないが、星宮先輩の嬉しそうな顔は嘘じゃないと僕は思うぞ」


 初めて山根に対して強い口調で言ってしまった。僕はそんなキャラじゃないのに。どうかしている。が、こうなったら後には引けない。


「星宮先輩と楽しんだ責任はちゃんと取るんだよな。許嫁だろ」


 追い込む僕に対して、山根は巨体をますます小さくする。


「楽しんだって言ってもなー。メガネを取って素顔を見ただけだぞ」


「えっ!それだけ?」


 意味がわかんないんだけど。星宮先輩に対して責任を取らなきゃいけないような楽しみって・・・。学園のマドンナの素顔?メチャ不細工とか・・・。


「花蓮はなー。本当は極度の恥ずかしがり屋なんだ。メガネがないと、どもってコミ症になるくらいのな」


「クールビューティの学園のマドンナがか?」


 とんでもない暴露話だ。猛獣使いの星宮先輩がだぞ。生徒会長とかしているんだけど・・・。


「ああ、裸を見られるよりも恥ずかしいらしい」


 完璧に見える人間でも、そんなウイークポイントを抱えているとは。神様も悪戯が過ぎる。


「マジかよ。で、彼女の素顔はどうだった」


 顔をポッと赤らめる山根。デブ、可愛くないから!


「女神みたいに美しかった」


 聞いているこっちが恥ずかしい。両想いじゃねーかよ!なら星宮先輩にそっけない顔とかすんなよ。めでたしめでたし。って、悩んでいるのか、デブ。世話の焼けるヤツだ。


「なら問題ない。山根さー。親同士が決めた許嫁はわかるけど、星宮先輩にちゃんと告白したのか」


「婚約しているのに今さら必要なのか?」


「必要だろ。言葉で言わないと心は伝わらないぞ。今日ここで告白しろ。僕が見とどけてやる」


 益々顔を赤らめる山根財閥御曹司は巨体をプルプルさせている。デブ、だから可愛くないから!!


「ぬっ。ここでか」


「ああそうだ」


「お弁当のお礼も言っていないだろ」


「そうだが・・・」


「なら決まりだな。今まで僕を騙してきたことはそれでチャラだ」


「古谷、お前。変わったな」


 山根に言われてハッとする。ノンビリとした暮らしを好むボッチ系草食男子の僕の発言とは思えない。八島鈴と暮らし始めて少しばかり変わったのだろうか。


 男同士の真剣な会話の向こう。衣装部屋の奥から、女子同士のキャピキヤピした会話が洩れ聴こえてくる。


「星宮先輩の下着、かわいいです」


「八島さんだって。それって勝負下着だよね」


「先輩だって絶対にそうですよね。スケスケじゃないですか。それに先輩、胸がデカいです」


「八島さんったらもう、触らないでよ。反撃だぞ」


「先輩!ブラ取らないでくださいよー」


 キャッキャとじゃれ合う美少女二人の声。顔を見合わせる僕と山根。互いに湯気が出そうな顔をしている。無茶苦茶恥ずかしいんだけど・・・。


 星宮花蓮のカラオケ大会!こんなもんじゃないことを、僕と山根はまだ知らない。

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