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学園の神聖ヒロインとなし崩し的同居生活!  作者: 坂井ひいろ
第二章 二人の学園生活
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024 八島さんの彼氏

 古谷三洋ふるや みひろ八島鈴やしま れい山根浩二やまね こうじが学園の食堂のテーブルについていた。


 山根の巨体がボディガードの代わりをしているが、古谷と八島は目立ち過ぎる。イケメンと美少女の組み合わせに諦めの溜め息が、生徒たちから洩れる。


「くっ、昨日の学園のマドンナに続いて神聖ヒロインもか。俺の夢が壊れていく」


「せっかく見つけたイケメンが八島さんとだなんて・・・。勝ち目がないじゃない」


「古谷のやろう。イケメンになったのは八島さんの力か」


「わっ、わっ。八島さんがお手製お弁当を古谷くんに。ラブラブすぎる」


「もう無理だ。お似合いの美男美女だ。告白する気力も失せたわ」


 八島鈴の放った作戦は、彼女の計画通りの反応となった。彼女に思いを寄せる男子はことごとく撃沈。イケメン化した古谷三洋を追ってきたクラスメイトの女子も、食堂の女子も沈黙するしかない。


「もう、シュークリームは必要ないんじゃないか」


 山根浩二は、僕が約束として買い与えた売店のシュークリームを指さす。


「どういう意味だ。山根」


「古谷が八島さんの彼氏だってみんなが認めたってことさ」


「そっ、そうなのか」


 一緒に住んではいるが僕と八島さんは恋人同士じゃないぞ。周りが勝手に決めないで欲しい。


「ああ。お前のその顔に戦意喪失ってことさ。イケメンは得だな」


 山根はつまらなそうに言葉を漏らす。こいつは味方なのか敵なのかさっぱりわからん。


「ふふっ、古谷くんの髪を切ってあげたのは私だよ」


 得意満面の笑みをうかべる八島さん。学園の神聖ヒロインとしてのすまし顔は何処に。でも、可愛いから許されるんだけどね。


「八島さん。キミ、こうなることを予測してただろ。ネクラボッチの古谷がイケメンなんて、いつもそばにいる俺ですら知らなかったぞ。だが、愉快だ」


 山根は八島さんの顔を見て豪快に笑いだした。それを見た僕の顔は引きつる。


 確かに未成年の同居は学園的に問題があるが、恋人同士を取り締まるほど私立開南学園高校は厳しくない。心配し過ぎたか。が、ここで気を緩めるわけにはいかない。


「あら、皆さんお揃いね」


 星宮花蓮ほしみや かれん先輩が、お弁当を二つ抱えて現れた。それを見た山根はゴクリと喉を鳴らして笑いを飲み込む。


「おっ、俺。おばちゃんの大盛ラーメンを買ってくる」


 席を立とうとする山根の肩に星宮先輩の手が乗っかる。指先が絆創膏だらけで痛々しい。


「どうした花蓮、その指?」


「コウちゃん。ラーメンは普通盛にしてね。私、コウちゃんのお弁当を作ってきたから」


 星宮先輩は自分の指と山根を交互に見てほほ笑む。


 山根の負けだな。学園の知性、メガネ美少女の星宮先輩が指に切り傷を作りながらお弁当を作る姿を誰が想像できるだろうか。


「わかった」


 山根がラーメンを買いに席を立つ。態度が妙に弱々しい。僕と接する時とは大違いだ。しかし、山根が星宮先輩に惚れるならいざ知らず、やっぱり星宮先輩の方が山根にぞっこんなのか。信じられない。


「あのー、私、古谷くんと同じクラスの八島鈴です。星宮先輩、古谷くんとカラオケに誘ってくださってありがとうございます」


「八島さん。こちらこそ、ご挨拶せずにごめんなさい。放課後もよろしくね」


 学園を代表する美少女二人に囲まれる僕。美しい眺めには違いないが、まるで落ち着かない。山根のやつ、いつも肝心なところで席を立ちやがる。


 山根が戻ってくるまで八島さんと星宮先輩は、まるで昔からの知り合いかのように女子トークで盛り上がった。二人でお弁当を作ろうだとか、お買い物に行こうとか。楽しそうだ。


 星宮先輩って、見た目と違って根は気さくなんだ。野獣の山根を飼いならすくらいだから、豪快な肉食女子かと思った。どうして山根は彼女を恐れるのだろうか。


 僕にはとてもいい人に思えるけど・・・。不思議だ。放課後のカラオケでわかるのだろうか。僕は憂鬱だったカラオケ大会が少しばかり楽しみになった。


 山根が戻って四人での食事がスタートする。


 星宮先輩が山根のために作ったお弁当は、八島さんが僕のために作ったお弁当と同じくらいラブリーな見た目からして恥ずかしいものだった。デブキャラの山根には全くと言って似合わないけど。って、僕もだけど・・・。


「どう。コウちゃん。美味しい?」


「ああ、マズくはない。それなりに食える」


 ラーメンとお弁当、交互に箸を伸ばして山根はぶっきらぼうに答える。どうしてそこまで冷たくあしらうのか。立場が逆だと思うのだが・・・。


 大口でパクパク平らげていく姿は餌付けされた家畜みたいだぞ。学園のマドンナが指にケガをしながら作ったお弁当だぞ。もう少し、大事に味わって食べたらどうだ。友達として恥ずかしくなる。


 だが、嬉しそうに山根の姿を見ている星宮先輩の顔を見ると怒る気にもならない。なんかこの二人、長く連れ添った夫婦みたいだ。父と母を思い浮かべてしまう。


「よかった。コウちゃんが食べてくれて。明日も作ってくるね」


「おう」


 短く答えてから、下を向いてお弁当をかっ込む山根。僕は、奴がまんざらでもない顔をしているのを見逃さなかった。


 なるほど。山根流の恥ずかしがり方か。こいつ、思いのほかデリケートで面倒なデブだと思った。

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