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学園の神聖ヒロインとなし崩し的同居生活!  作者: 坂井ひいろ
第二章 二人の学園生活
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019 『LOVE』の文字

「LOVE・・・」


 僕のお弁当箱を覗き込む山根浩二やまね こうじ星宮花蓮ほしみや かれん。視線の先にあるものは・・・。


 野菜とハム、薄焼き卵を切り抜いて作った沢山のハートマークに囲まれて鎮座ちんざする海苔で作った『LOVE』の文字。


 うまそうな唐揚げやソーセージもきれいに整列しているが、それどころじゃない。


 手の込んだ悪戯だ。八島鈴やしま れいの整った顔がニコッと笑う姿を思い浮かべてしまう。


「古谷くん。ずいぶんと可愛らしいお弁当ね」


 ふふっと不敵な笑みを浮かべる学園のマドンナ、星宮花蓮。


「誰に作ってもらったんだ?」


 険しい顔を向けてくるデブキャラ、山根浩二。


「こっ、これは母さんが・・・」


 返す言葉が思いつかない。思わず口をついてでた言葉もあとが続かない。


「ウソをつけ。お前の母親の手作り弁当は、去年の体育祭で見たぞ。さんざん愚痴をこぼしていたのを忘れたのか」


 くっ。山根のやつ。一年の時からの付き合だから、誤魔化しづらい。


「たぶん、妹の奴が手伝って・・・」


「そうやって誤魔化せるとでも思っているのか。古谷の妹はお前をバイ菌のように言っているんじゃなかったっけ。だいたい、お前。独り暮らしを始めたんだよな」


 たたみかけてくる山根浩二に、古谷三洋ふるや みひろは言葉を詰まらせる。


 どうする僕。逃げ場がないぞ。が、八島鈴が家にいるなんて口が裂けても言うわけにはいかない。修羅場が訪れるのは間違いない。


 すでにこの場は、学園のマドンナ星宮花蓮と、デブキャラ山根浩二。二人の『いいなずけ』問題で注目の的となっている。


 男子どもの鋭い敵意の視線が降りそそぎ、女子たちは食事をとるふりをして聞き耳を立てている。僕には、周りを一喝する山根のような迫力も勇気もない。


「熱を出して休んだから、心配して従妹いとこが家にきている。看病のついでに弁当を作ってくれた。悪いかよ」


 逆ギレモードで返す。


「ほう。うまい言い訳を考え出したものだな」


 疑わしそうに僕の瞳を覗き込む山根浩二。耐えろ。今、顔を逸らしたら確実にバレるぞ。


「私も明日からコウちゃんのお弁当を作ろっと」


 星宮花蓮の言葉に、割りばしを落とす山根浩二。風向きが変わった。食堂の生徒たちの意識が山根にまわる。彼女の一言で再びざわつき始める食堂の生徒たち。


 ホッとする僕。注目されるのは変わらない。


 はあー。慎ましやかな顔をして、けっこう大胆なのね、星宮さん。誰にも注目されない穏やかな生活が懐かしい。


「花蓮、俺は食堂のラーメンを愛している。知っているだろ」


 山根が学園のマドンナを呼び捨てに・・・。しかも下の名前。相手は先輩でもあると言うのに・・・。途端に男子どもが騒めき立つ。


「コウちゃんのケチ」


 むくっとふくれる星宮花蓮先輩。むっちゃ、かわいいけど・・・。どうみてもラブリーな顔を差し向けているのは星宮さん。山根は始終ムスッとしている。


 周囲の状況は二人には関係ないのか?夫婦喧嘩は犬も食わない。


 言い合う二人をよそに、僕は黙って海苔で作った『LOVE』の文字に箸をつけた。


 うまい。なにもかもがうまい。プロ顔負けの味。それだけに今の状況が残念でならない。


 いいなずけかー。この二人、案外とお似合いかもしれない。デブでなければ、山根の顔はけっこう整っている。


 体重が半分くらいになるまでダイエットすれば、イケメンになるかもしれん。性格だって悪くない。


 山根はなんだかんだ言って、クラスの男子に頼られているものなー。この二人、どんな関係なんだろう。


 どんなきっかけで二人はいいなずけになったのか?異色過ぎてなにも思い浮かばない。


 詮索は後回しだ。とにかく、二人に注目が集まっている内に・・・。目の前の『LOVE』を無きものに。僕は八島鈴のお手製お弁当をかっ込んだ。


「うっ」


 お弁当の底を見て、思わず声を漏らしてしまった。山根と星宮先輩の視線をそこに感じる。完全に見られてしまった。もはや言い訳もできない。


 お弁当の底にペンで記されたメッセージ。


『私を拾ってくれてありがとう。八島鈴』


 顔を青くする僕を尻目に、山根と星宮先輩はついさっきまでケンカしていたのをすっかり忘れて、顔を見合わせてニヤリと笑った。

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