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配達人~奇跡を届ける少年~  作者: 禎祥
五通目 慈母の手
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「うーん……これは……」


 すっかり綺麗になった廃ホテルの地下。

 いつものように【手紙】の仕分けをしていた。

 いつもと違うのは、チーム配達人が勢揃いしているくらいか。


「……没」

「えっ?!」

「助けてあげないんですか?!」


 【不受理】の箱にはらりと落とすと、非難の声が上がる。

 声の主は、配達人である甥っ子の香月と、最近この活動を手伝うようになった(あまね)夏樹ことなっちゃんだ。

 俺が内容を確認していたのを横から覗き込んでいたらしい。

 まったく、何のために俺が仕分けしてると思ってるんだ。


「やめてよしてそんな目で見ないでっ! おいちゃんが悪者みたいじゃないの!」

「うーん、でも楓、これは俺も放っておけないかな」


 あら、(かなめ)までそっち側ですか。そうですか。

 ルナまでジト目で見てくるし。

 これはこの後の食事会が気まずくなるパターン。


「だ~ってさぁ? これ、()()じゃないじゃん? 誰に何を届けろってのよ?」


 うん、俺だってアレよ?

 子供が苦しんでるのは見たくないし、何とかしてやりたいとは思う。

 けどさ。これじゃ、誰が何をどうして欲しいのかわかりゃしない。


「じゃあ、俺が()()するよ」

「さすが要さん!」

「ありがとう、父さん!」


 いったん【不受理】の箱に入れたその紙束を拾いあげて、ひらひらとさせていると要に取り上げられた。

 子供たちはキラキラとした目で要を見上げてるし。

 おいちゃん、ちょーっと面白くないですよー。


「それで? 依頼にするってことは、何か作戦があるわけ?」

「ん? ないよ? だって今回俺は依頼者だもの。考えるのは任せる」


 ズコーッ。

 意地悪半分、期待半分で聞いてみたら、悪びれもせずにそんな答えを返してきやがった。

 まぁ、それが本気の言葉じゃないのは、悪戯が成功したようなしたり顔でわかる。

 こういう時、俺とこいつが双子だって実感するよ。


「まぁ、冗談は置いといて」


 要は俺から取り上げた紙束を、最近ここに設置したコピー機にかける。

 そして、同じく置いてある机の引き出しから未使用の封筒を取り出し、コピーをそれに入れた。

 手紙の体裁を整えたそれを、要は俺に寄越してくる。


「じゃあ、よろしく」

「はいはい。で、これは誰に届ければいいわけ?」


 聞いてる間にも、要は更にコピーしたそれを別の封筒に入れる。

 これで、同じ手紙が3通。3通?

 原紙は何故か不受理の箱に戻し、複製した2通を要が自分の鞄にしまう。

 香月もなっちゃんも、要の行動の意図が読めず首を傾げてじっと説明を待っている。


「そっちは良いのか?」


 俺が聞いたのはもちろん原紙の方だ。

 珍しくコピーを取ってまで同じ手紙を複製したってことは、何か考えがあるのだろう。

 既に渡す相手すら決めていそうだ。


「ところで、この()()は誰がここに置いたと思う?」


 俺の質問には答えず、要が質問で返す。

 そう、()()

 俺が手紙ではないと断じたそれは、『私の家族』と題された文章だった。

 一度丸めかけたのか、皺が寄ったそれを丁寧に伸ばした跡がある。

 4つ折りに畳まれた、400字詰めの原稿用紙。


「誰って、書いた本人じゃないのか?」

「本人なら、一度丸めた物をわざわざ伸ばしますかね?」


 俺の考えを否定したのはなっちゃん。

 自分が【配達人】に頼るために手紙を書いた時は、何度も書き直したという。

 要は何を考えているのか、いまいち読めない微笑を浮かべたままだ。


「あ、学校の先生だ」

「こぉら、香月。勝手に()()()()って約束したよな?」

「あ、ご、ごめん楓。つい」


 いつの間にか原紙に触れていた香月が、わかった、と声に出す。

 サイコメトリーはダメージを喰らうことが多いから、香月が触れないようにしてるってのに。

 これじゃ仕分けの意味がないじゃねぇか。

 叱ると、ペロ、と舌先を出して口先だけの謝罪をする香月。

 全然悪いと思ってない様子でも腹が立たないのは、可愛い甥っ子だからだろうな。


「で? 何が見えたって?」

「えっと、セーラー服の女の子。みんな大っ嫌いって感じと、この作文を渡してすぐ走っていくのが見えたよ。それと、ごめんなさいって、泣きたいの我慢してる感じがした」

「ごめんなさい、ねぇ……何したんだか」


 香月が物から読み取れるのは、それに籠められた強い思いだ。

 憎しみと後悔、読み取れたのはどちらも負の感情だが、香月は案外ケロっとしている。

 自分のことのように追体験するって聞いているから、香月が傷ついていない様子にホッとする。


「えっと、それでね。この作文、書いた子から別の人に渡ってるでしょ? なら、これをここに置けたのは先生かなって」

「さすが香月。名推理だね」

「えへへへ」


 要に褒められて、香月が嬉しそうに笑う。

 要が答え合わせとばかりに、説明する。


「この原稿用紙を置いたのは、学校の先生だと俺も思うよ。何故ここに持ってきたのか、どうしたかったのかは本人に聞かなければわからないけれど。ただ、提出物ってことは、いつかはこれを書いた生徒に返却する必要があると思う。だから、きっとこれを取りに来るんじゃないかな?」

「んじゃ、その時捕まえて事情を聞くか」


 夏樹も香月も、親に捨てられた経験のある子だ。

 悲痛な内容の手紙を、他人事とは思えなかったのだろう。

 そして、要は自分の子供を亡くして以来、苦しむ子どもを放っておけない人間になった。

 知ってしまった以上は助けたい。

 それがここにいる全員の思いだろう。


「よし、じゃあ役割分担決めるぞ」


 誰にどんな仕掛けをするか。

 香月もなっちゃんもアイデアを出しながら、計画を練り上げた。


 さて、チーム配達人、出動だ!


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