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配達人~奇跡を届ける少年~  作者: 禎祥
三通目 親子の情
53/64

16

 それから暫くして。

 楓から珍しく呼び出されて木下家に行くと、子供を抱いた一花お姉さんと、お爺さんが来ていた。


「あれ?  もう産まれたんだ?」

「うん、そう。敏さんと会えたのにびっくりしたのか、あの後すぐにポロリと」


 ポロリって。

 未熟児だから、その後赤ちゃんだけ入院して、お姉さんは先に退院。で、赤ちゃんも先週、体重が平均値になったとか退院できたらしい。


「でね、香月君には報告しておこうと思って」

「敏朗と会話させてくれて、一花さんと出会わせてくれなければ、こうして敏一を抱くこともなかっただろう。本当に、ありがとう」


 僕が訪れなければ、お姉さんの存在すら知らないまま、いらぬ苦労をさせてしまったかもしれない、とお爺さんが頭を下げて、お姉さんも赤ちゃんを抱いたままそれに倣う。


「おお? 何だ? 香月、大活躍じゃないか」

「大したことしてないのに……」


 茶化してくる楓を叩きながら、顔を上げるように二人にお願いする。


「それに、僕もお兄さんには助けられましたから」


 顔に疑問符を浮かべる二人に、僕は慶太君がいなくなって、楓やルナ、お父さんが疑われて連れていかれたこと、慶太君を探し出すのをお兄さんに手伝ってもらったことを話す。

 二人は敏朗さんらしい、と涙を浮かべながら笑っていた。



「そうそう、今日は香月くんにこれを見て欲しかったの」


 赤ちゃんをお爺さんに預け、お姉さんがごそごそと大きな木板を取り出す。

 それには、真っ白い着物に身を包んだお姉さんの絵と、黒い着物を着たお兄さんの絵が描いてあった。

 その左右に、生年月日? と、お兄さんの方にはえっと、読み方わからないけどもう一つ日付が書いてある。


「ムカサリ絵馬って言うのよ」

「ムサカリ?」

「ムカサリ。迎え去るが語源だったかな」


 お姉さんの聞き慣れない言葉に、お爺さんが解説してくれる。

 左右に書いてあるのはやっぱり生年月日でお兄さんの方の一つ多いのは享年……死んだ日と年齢だって。

 死んだ人と結婚するための物で、この人と結婚しますって神様に奉納するんだって。


「って、結婚?!」

「うん。冥婚って言ってね。戸籍上夫婦になれるわけじゃないんだけど、魂で結ばれるんだって。私、どうしても敏さんと結婚したくて。調べたら、こういう方法があるって」

「式を挙げられるのは順番だから、来月になるけどね。敏郎も喜ぶだろう」


 冥婚をすることで、お姉さんが死んだ後確実にお兄さんの所に逝けるらしい。

 うん、まぁ、お姉さんがすぐに死のうとかしなければそれで良いや。

 幸せそうに笑うお姉さんを、ルナが「素敵ねぇ」とうっとりした顔で見守っていた。


 幸せに包まれて皆笑っている。お姉さんも、お爺さんも。楓も、ルナも。僕も。

 この時間が何よりも好きだ。この瞬間のために、配達人をやっていると言っても良い。




 三人が帰った後、楓が手紙を取り出して聞いてくる。


「さて、また新たな依頼だが……まだやるのか?」


 もう辞めても良いんじゃないか、と言外に楓が聞いてくる。ルナも、もう僕が悩みを解決する必要はないんじゃないかって。でも……。


「やるよ。だって、まだまだ配達人(ぼく)を必要としてくれる人がいっぱいいるもの」


 辛い想いをしている人も、未練を残して彷徨っている幽霊も。救わなければならない人がたくさん、たくさん。

 これは僕にしかできないことだもの。


「サポートしてくれる素敵な伯父さんもいるしね」


 僕がそう言うと、任せろ! と楓がサムズアップして見せた。ルナもにっこり笑っている。


「さぁ、今日も想いを届けに行こう」




 こうして、僕は今日も想いを届ける。

 ある時は手紙。ある時は記憶。またある時は……


 ああ、でも、学校の方もちゃんと行ってるよ?

 力の制御も身についてきたし、うまく溶け込めてると思う。

 名前が本庄になったことを弄ってくる意地悪な子もいるけど、僕は笑ってこの誇らしい名前を名乗る。そうすれば大体のことは大丈夫なんだ。

 それに、何かあっても、どんな時でも、お父さんは変わらずに僕の味方だしね。




 あ、ほら、また暗い顔した人がいるじゃないか。 


「あれ? おばさん、どうしたの?」


 今にも泣きだしそうな、それでいて感情が抜け落ちてしまったような表情のおばさんがフラフラと歩いている。

 足元には、小さなトイプードル……の幽霊が心配そうに見上げながらチョコチョコとついて回る。




「ふぅん……死んだ娘さんが大事にしていたワンちゃんがいなくなっちゃったんだ? 大変だねぇ」


 声をかけたおばさんが、娘に申し訳ないと泣きながら語る。

 僕は、そんなおばさんにいつもの台詞を言う。さぁ、この人も救わなくっちゃ。


「なら、『配達人』を頼ってみたら?」






~親子の情・完~

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