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配達人~奇跡を届ける少年~  作者: 禎祥
三通目 親子の情
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11

 慶太君が見つかった翌日。


『なぁ、坊や? 何か忘れていないかい?』


 綺麗な顔のお兄さんが、目が覚めた僕の顔を覗き込みそう声を掛けてくる。僕の顔の上でゆらゆらと揺れる一筋の青色メッシュが、真似したくなるくらいカッコいい。


「……何だっけ……?」


 っていうか誰だっけ? と寝惚けた僕の言葉にお兄さんが盛大にずっこける。

 ノリの良い人だったんだろうなぁ。


『お 前 な ぁ ! 慶太を見つけるのに協力したら、俺に協力するって約束だっただろうが!』

「あっ! ご、ごめんね、お兄さん」


 本気で忘れてたよ。

 両手を合わせた僕に、わざとらしく怒り顔を作ったお兄さんが手を振り上げて見せる。

 思わず目を瞑って身をすくませると、額にデコピンされた。でも、昨日お父さんにされた時ほど痛くない。


『じゃあ、約束だし、今日は俺に付き合えよな』

「あ、でも、今日月曜日だ! 夏樹が来るから、夕方までね」

『ん? ああ、それは構わんが……あれ? お前、学校は?』

「ん~……サボる!」


 以前配達人をするきっかけとなったお爺さんに言われた通り、行くようにはなったけれど。

 町内に三つある小学校のうち、僕がもともと通っていた所は巧く能力を隠すことができずに不登校になってしまっていた。

 お爺さんに言われて学校に行く、と言い出したとき、そのままだと通い辛いだろうって要が転校させてくれた。

 中央小学校から南小学校へ。町内区分としては学区外だけれども、距離的にはかえって今の学校のほうが近い。


 能力の隠し方を要や楓に教わって、何とか溶け込んでいるけれど。意地悪な子供というのはどこにでもいるわけで。いや、異質なものを見抜く力が長けているのか。

 とにかく、新しい学校でも僕はまた馴染めていないのだ。だから、現在でも行ったり行かなかったりしている。


 堂々としたサボり宣言に呆れ顔のお兄さんは、それでもちょっと嬉しそうだった。

 急いで支度して、要が作り置きしていってくれた朝ご飯(どうやら僕が寝た後に仕事に行ったらしい)をかき込むと戸締りを済ませて家を出た。



「それで、どうしたいの?」


 お兄さんと最初に出会った場所、つまりお兄さんの家の前に来たわけだけど。


『ノープランかよ。何か考えがあるかと思ってたぜ』

「お兄さんがどうしたいか聞いてないもの」


 謝りたい、と言ってたのは聞いたけどさ。

 塀の影から覗くと、お兄さんのお父さんは前に見た時と同じように、縁側でぼんやりと庭を眺めている。

 よくよく見ると、今日は何やらCDを持っているようだ。


『親父……』


 その姿を見て泣きそうになっているお兄さん。

 う~ん……よし。


「お兄さん、約束は守れる?」

『何だよ急に? 今はお前が約束を守る番だろ?』

「そうだけどさ。お父さんと、直接話したいでしょ?」

『親父に、俺を視えるようにしてくれるのか?』


 期待に満ちた目を僕に向けるお兄さん。それでも良いんだけど。


「僕の身体を貸してあげるよ。ただし、夕方までに僕は家に帰らなきゃならない。それまでに身体を返して欲しいの。守れる?」

『身体を、貸す? そんなことが……』

「約束、守れる?」


 戸惑うお兄さんに念押し。

 少し考えて、約束する、と言ったお兄さんの目は信じられるものだった。

 

「じゃあ、はい」


 僕はお兄さんに両腕を広げて真正面から立つ。

 意味がわからない、という顔をするお兄さん。


「着ぐるみの服を着るような感じで僕に入るの。出るときはその逆」


 恐る恐る、といった感じでお兄さんが僕の中に入ってくる。

 この瞬間はぞわぞわしてあまり好きじゃないのだけれど。

 主導権を完全に渡してしまった後は映画を見ているような感じでちょっと面白い。



「よし、行くぞ」


 こうして、僕(お兄さん)は家の門をくぐり、お爺さんが眺めている庭へと回った。


「何しょぼくれてんだよ、親父」

敏郎(としお)、か……? そんな、バカな」


 うん、ちゃんと、僕がお兄さんに視えているようだ。

 僕(お兄さん)の姿に驚いて、立ち上がるとヨロヨロと近づいてきた。


「この、親不孝者がっ…!」

「おっと」


 いきなり殴りかかってきたお爺さんの拳骨を、お兄さんが余裕で受け止める。


「殴るのは今日はなしな、この体、借りもんなんだよ」

「ふざけるのも……」

「聞いてくれよ、親爺。あまり時間がないんだ」


 怒りなのか、プルプルと震えるお爺さんの腕を掴んだまま、落ち着くようにお兄さんが言う。


「親父、言ってたよな。いつまでフラフラ遊んでいるんだって。髪だって染めてって」

「子供は親の言うことを聞いていれば良いんだ!」

「そうじゃないんだ。最期くらい俺の話を聞いてくれよ」


 お爺さんとお兄さん、いつもこんな感じだったのかな。

 言い争う二人に、これは長引きそうだと感じた時、お兄さんがでっかい爆弾を落とした。


「子供が産まれるんだ」


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