第八話 必死に守る
地元の駅ビルに入っている本屋に立ち寄ると、運よく制服姿の妹の後ろ姿が目に入ってきた。
料理の雑誌を立ち読みしている妹を見て、最近は食べ物に興味を持ち始めてくれたのだと嬉しく思う。
妹の風夏は中学生のときに摂食障害に悩まされていた。
小さい頃から人一倍繊細なこなのだが、数年前に学校の友達との関係が上手くいかず、食事が喉を通らなくなり、かと思えば急に何かに取り憑かれたかのように無心で食べ続けては吐いてを繰り返していた。
高校に行き始めてからはいい友達ができたようで、顔つきも明るくなってホッとしている。
なんとか小さい頃のように美味しそうな顔をして食事をする妹を見るために、試行錯誤して料理を作ってみるのだが、いつもお兄ちゃんの料理は不味いと言われてしまう・・。
見慣れたいつもの風景を目にしながら、妹と少し距離を置いて互いの自転車を漕ぐ。
家の門の前に着くと、そこで初めて妹に声をかける。
「風夏!」
「お兄ちゃん・・」
「お前も今帰りか?偶然だな」
ウソをすぐに見抜く彼女は軽く溜め息をつくと、俺に駅から後をつけてきただろうとムスッとした。
「軽く犯罪」
「な、なんだよその言い方。言葉選べよ~」
兄ちゃん傷つくだろうと言うと、妹は軽く俺を睨みつけてから家に入っていった。
中学生のときのように彼女のサインを見落としてしまわないように、こちらは必死だというのに、我が妹ながらクールすぎる。
「フッフフーン」
もう機嫌がよくなり鼻歌を歌いながらキッチンで手を洗っている。
「お兄ちゃんてさあ、どうして私の居場所がすぐに分かっちゃうわけ?怖いんだけど」
まるで俺をストーカーのように言う風夏に、カワイイ妹を見つけ出すのは簡単なのだと言うと、キモイからやめてと言われる。
数年前までは光を失ったような、うつろな目をしていたが、頑張って家族であいつを元の場所へ連れ戻すことができてよかったなと思う。
「お前はもう大丈夫だよ」
なんとなくつぶやいてみる。
「なんて?」
聞こえてしまったようで面倒臭そうにきかれる。
俺は腰かけていたダイニングのイスから腰を上げると、もう少し兄ちゃんの言葉に耳を傾けてくれよと言った。
「ふふっ」
「なんだよ」
「お兄ちゃんのその顔ウケる」
小悪魔のような顔をした妹は、しょぼーんって顔と笑った。
まったく、お前こそなんだよ、その顔は・・。
うちの妹は地球上で一番かわいい。
こんなにも笑っているから、今は幸せなのだろう。
それでいい・・。
お兄ちゃん、果たすべき役割を果たしています(^-^)