第三話 長考
手が届きやすかったのだろうか・・・。
顔を合わせた途端に彼氏になってもらえるかと訊いてきた。
竹内杏。
正直初めて見るこだった。
日を追うごとに不思議な気分になる。
校庭の二宮金次郎像をぼんやりと眺めながら、今年の夏休みもあっという間に終わったなと思っていると、再び彼女の顔が浮かぶ。
自分もそうだが人見知りなのか、俺を前にして制御不能のような状態になっていた。
思い出してもけっこう面白かったので、応えに困ったが彼女の希望を受け入れたいと思う自分がいた。
「無自覚だろうけど最近ニヤついてるぞー」
ホームルームが終わると樹が既に空いている俺の席の前にドカッと座った。
「・・・。かもな。知らんけど」
「深くは追求しないけどな」
樹といると、ときどき独りになりたいと思うときがある。
もともと人と深く関わることがニガテな俺の横に、気が付くと樹は常にいるようになった。
「花火大会楽しかったよな~」
彼は比較的男前で、シュッとしていて少し派手な女の子たちが寄ってくる傾向がある。
「男四人だったけどな」
樹は彼女という存在に執着することがないのか、仮に不仲になっても未練があるようには全く見えない。
俺の唯一の理解者のような顔をしているが、俺の方はと言うと樹のことがほとんど理解できていないと思う。
「カラオケ寄ってこうぜ!俺財布に優しいとこ見つけちった~」
あのこのことを樹に話すのが、なぜだかわからないが少々心配だ。
杞憂であってくれればいいが、思いも寄らない展開になりそうで気が引ける。
茶化してくれれば気が楽になるのだが、どうもそうはいかないような気がしてならない。
「樹・・・」
「ん?」
「話があるんだけど」
触れずに済むのならそうしたいのだが、いずれはバレそうなので言っておくべきだ。
「俺は反対」
「え・・・」
「電車の子のことだろ?俺は反対」
俺の視線の先には微笑している樹がいて、やはり俺は彼のことを理解できていないと確信した。
仲はいいんですけどね~