第十三話 尺度
「急いては事をし損じるって言うだろ?」
先日の俺と杏のその後の消息を尋ねてきた樹は、自分の意見を少しも疑っていない様子だ。
「・・・。俺は樹の考えてることがまるでわからない」
電子辞書を片手に腕組みをして、座っている俺を見降ろしている樹は別に自分はお前たちを引き離そうとしているわけではないと言った。
「俺はただ刀哉に目を覚ましてほしいだけだよ」
やはり樹は杏のことをよくは思っていないのだ。
「・・・。杏はいいこだよ」
すると樹はうーんと首を傾げた。
「あのこが悪い子じゃないっていうのは一目でわかったんだけど、なんて言うか手ごたえが無さそうって言うか、もう少しハードルが高いこにすればいいのにっていう感じ?」
樹の言葉を聞くと、予測していた事態なだけに俺は深い溜め息をついた。
「どうして後ろ向きにしか考えられないんだよ」
理解に苦しむと思うけどと前置きをすると、樹は真面目な顔をして俺の第六感がそう言ってると言った。
「そんな顔するなよ~」
厄介なヤツだなと辟易していると、樹は楽しそうな顔をした。
電車内にずっと乾いた咳をしている人がいるので気になっていた。
迷惑かなと思ったが喉あめをさしだすときょとんとした顔をしてからニカッと笑った。
「ありがとう!やさしいね」
「・・・。なんか無視できなかったので」
人に無頓着な私にしては珍しいことをしてしまった。
「S女だよね。何年?」
混雑している車内で私の前に向き直ったその人は、愛想なしの私とは正反対の顔つきをしていた。
「1年です」
「俺は2年!」
クラスにいたらきっと目立ちたがり屋さんだろうなという種類のその人は、ぎこちない態度の私にフレンドリーに話しかけてくれた。
「私の姉は、M校の2年なんですよ」
「へえ・・・。うちの学校と近いよね」
一瞬だけ感情を凍らせたような表情をしたその人を不思議に思い、あの・・・と言うと、ああごめんと彼は我に返った。
「メガネっ娘っていいね」
一瞬の顔つきで身構えてしまった私に、彼はまた人心掌握が得意そうな顔をして嬉しそうに言った。
「それほど希少じゃないです」
「はは、そうだけど。数いるメガネっ娘の中でも君はいい線いってるよ!」
満面の笑顔の彼を見てなんだか恥ずかしくなり、私はもうそれ以上言わないで下さいと言った。
古いタイプの人間みたいだが、私はあまり男の人とうまく話すことができない。
人との会話がハイかイイエで済むのならばとてもラクなのだが。
「これ、ゴチでした♪」
私とは対照的に気の緩んだ顔をした彼は、自分の頬を指でつんつんすると、次の駅で降りていった。
周りの目を気にせず、電車を降りてからも私に手を振ってくる彼に、悪い気はしていない自分がいた。
背を向けてからも頭の上で軽く手を振った後姿を、ずっと見続けていたけれど、すぐに見失ってしまった。
新たな出会いがありました( *´艸`)




