第十二話 紛れもない事実
「俺と一緒に逃げよう」
刀哉くんが私の耳元に小声で呟いた。
なぜ彼がそんなことを言ったのかというと、彼の友達の樹くんと、その彼女を撒くチャンスがきたからだ。
彼の友達のことを、私の勝手な思い込みで、やんちゃな感じの明るい人と思い込んでいたのだが、学校の最寄りの駅でばったりと会ってからというもの、矢継ぎ早に刀哉くんとの仲を質問され、思っていた印象とだいぶ乖離しているので困ってしまった。
「彼女さんは運がいいよ~。刀哉みたいな男が彼氏でね」
「あ、ええと杏です」
私の名前には特に興味がないようだが、刀哉くんを褒められたので一応喜んでいるふりをした。
「でもさあ、覚えておいて。」
何やら悟った顔つきで樹くんは出し抜けに言った。
「俺引き離しちゃうかも」
獲物を見るような樹くんの眼差しに私はうろたえ、乾いてしまった唇を震わせて返す言葉を探していると、刀哉くんがおい!と言った。
横にいる彼を見上げると、こめかみに青筋がたっている。
「やめろよ。困ってるだろ」
すると樹くんはぷっと吹き出して怒るなよ~と笑った。
「ごめん、ごめん。あまりにも仲むつまじいからからかいたくなっちゃった」
刀哉くんを見ると、手に負えないやつだなという顔をしている。
樹くんの彼女は、彼とその友達の会話に入り込む余地がないらしく、つまらなそうな顔をしている。
私たちの前を歩き始めた樹くんと彼女の後ろで、刀哉くんになんとか歩調を合わせていると、前方から格闘ゲームをやりたいからゲームセンターにでも行くかという樹くんの声が聞こえてきた。
正直気が進まないなと思っていると、おもむろに刀哉くんが私の耳元で呟いた。
「俺と一緒に逃げよう」
驚いて刀哉くんの顔を覗き込んだが、躊躇う理由がなかったので私たちは脱出に踏み切った。
手に手を取って、ゆっくりと歩幅をゆるめると通行人の中に紛れていく。
二人でくるりと背を向けると、一気に雑踏の中を逆送した。
風がびゅんびゅんと私の頬を撫で、心臓がどきどきして目は涙目になっていたと思う。
はあはあという荒い息遣いだけが耳の中で響いた。
今日はっきりわかったことは、樹くんの自分への敵意だった。
十中八九ですね~




