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〜紅 朱理の叛逆〜  作者: くしくし
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黒薔薇の騎士団①

学園が占拠されてから15分程経過した。

全ての教師は解放。代わりに学生は人質として学園に捕らわれていた。

学生270名を一か所で管理するため、黒薔薇の騎士団は学生を体育館に集めた。

大戦後に修復改築工事されたこの学園は、体育館もただの建物ではない。

爆撃からも数十発は耐えられる仕様になっており、セキュリティーも万全で、管理プログラムをいじることによって、特定の者しか入れないようになっている。

そのため、警察が体育館の周りを囲んでいるが、思うように突入することができず、また、手をこまねいていれば、体育館の中から銃口を向けた黒薔薇の騎士団に発砲される。


セキュリティーの高さが仇となってしまった。


体育館では、誰一人黒薔薇の騎士団に逆らうものはいない。

みな、指示に従い体育館の中で肩を寄せ合い震えていた。

「私たちこれからどうなるんだろう。」

体育館で安奈の隣に座り、安奈の右手の袖をぎゅっとつかみ震えている寧々が囁いた。

そんな寧々の不安を払拭するかのような柔らかな、それでいて優しい笑顔で安奈は寧々を見た。


「大丈夫だよ。」

何者も恐れない、強いまなざしと確信をしている目で寧々を見つめる安奈。

そんな彼女の顔を見て、少しばかり寧々の震えが収まった。


唐突に、スピーカーからあー、あー、という声がした。

みながスピーカーに目をやった。

「貴様たち学生はこれよりこの国、日本との交渉の材料になってもらう。」


『材料』という言葉を聞き、動揺する学生たち。

スピーカーの主はそんな学生のことなどお構いなしに話し続けた。

「我々も手荒な真似はしたくない。日本政府が我々の要求を吞んでくれれば問題ない話だ。だがしかし、もし日本政府が要求を呑まなかった場合、みせしめとして、学生1名を公開処刑することとなる。

その場合、だれが死ぬかは貴様たちに選ばせてやる。」


その後、スピーカーの主からの説明はなかった。

みなが状況を理解できない中、一人の学生が「・・・死にたくない」

そう呟いた。

その声を聴いた瞬間、その場の緊張が溶け、みなが叫びだした。

「いやだ!いやだ!死にたくないぃぃぃぃいい!!」

「なんで私がこんなことに!!なんでぇぇぇ!」

「僕は死なない!!誰を犠牲にしても死なないんだぁぁぁぁぁ」


気づけば、学生同士誰を処刑の対象にするか、お互いが生き残るため、必死に相手より優勢のあること、これからの社会に必要であること、自分より弱者を探し、その者に処刑という重荷を押し付けようとする一種の暴動が起きていた。


そして、その状況を体育館の中にいる黒薔薇の騎士団は楽しそうに眺めていた。

――

――――

――――――

「犯人の声明。」

大濱が会社のTVを見ながらつぶやいた。

犯人からの声明は次の4項目である。

1 黒薔薇の騎士団は日本を拠点としてこれから本格的に活動を開始する。そのため、日本は黒薔薇の騎士団を受け入れること。

2 これからの活動資金を日本政府がすべて出資すること。

3 黒薔薇の騎士団が犯罪を起こしたとしてもそのすべての行動を容認することと。

4 以上3つの要求全てを呑むことを条件とし、1つでも要求が吞めない場合は、学生を一人ずつ公開処刑する。回答は声明終了後30分以内とする。


「なんて卑劣なんだ。」

大濱の隣にいた同僚が呟いた。


そう、この声明はとても卑劣である。

なぜならば、第三次世界大戦の最中、突如現れ大戦を終わらせた戦犯、『黒薔薇の騎士団』が起こした事件である。それ故、世界中が黒薔薇の騎士団と日本政府の動きを見ている。

日本政府が要求を呑めば、日本政府を他国が侵略するための口実を作ってしまうことになる。

だがもし、断れば、日本政府は国民の命を蔑ろにした国として、国内および他国から非難を受ける。

そう、これはどちらの選択肢を選んでも地獄行きの片道切符である。


日本政府が回答するまで、残り5分。

TV画面を見ながら、大濱は祈るように両手を胸の前で合わせ、力を入れた。

「・・・暁君。」


蒼助は会社にいなかった。

TVで学園が映り、状況を知った瞬間、走って会社をでて行ったためである。


――

――――

ーーーーーー

体育館では、政府の回答時間が迫る中、だれを犠牲にするか言い合っていた。

言い争っている中に、だれも犠牲にならないための方法を考えている者は誰一人としていなかった。

そして、政府の回答時間直前、体育館の壇上に上がり、全生徒に立った者がいた。

「お前たち、いい加減にしろ!」

その一声で、生徒の罵声がやんだ。


「私は、生徒会長。鷺ノ森 明だ。」

学園の生徒会長、鷺ノさぎのもり あきら

この学園における、生徒会は特別な存在である。

もともと秀才、天才の集う学園において、全生徒をまとめる存在。それすなわち、何者も

寄せ付けない知識、財力、カリスマ性が求められる。

それら全てを兼ね備えた者だけが、生徒会に入ることを許される。

その中でもトップに君臨する生徒会長は、まさに特別な存在といえる。


「我々は、これからの日本を、世界を担う存在だ。だからこそ我々は誰一人かけてはいけない。だが、それでも誰かひとり選ばなければならない。」

悔しそうに、目に涙を浮かべて全生徒に演説する鷺ノ森。それが演技なのか、本心なのかはわからない。

ただ、その涙とカリスマ性にその場の誰もが彼に共感しつつあった。


「そう、だれかを選ぶならば、これからの日本、世界に最も影響力のない者を選出すべきだと僕は考え、決めた。」

体育館に緊張が走る。

自分の名前だけは呼ばれないでほしい、皆がそう願った。


「僕たちのために、犠牲になってもらうのは・・・彼女だ」

生徒会長 鷺ノ森が、体育館の隅で寧々と肩を寄せ合い、座っていた安奈を指さした。


「なんで、どうして・・・?」

安奈の隣に座っていた寧々が呟き、そして立ち上がり、生徒会長に向かって声を荒げた。

「どうしてですか!どうして安奈ちゃんなんですか!」


鷺ノ森は、手に持っていたタブレットを操作し、一人の個人情報を読み始めた。

「暁 安奈。両親を過去になくしており、兄と二人暮らし。兄は高校中退し、知り合いのツテで入社した中小企業で働いている。本来であれば君みたいな一般人が入学できるような学園ではないが、学園史上最高の成績を入学試験でだし、特待生としてこの学園に入学。

・・・分かるだろ、彼女は我々と違い、ただの一般人なんだ。」


鷺ノ森の言葉を聞き、寧々以外、納得する生徒たち。

「それでもっ!」

「それでもなんだ!!」

寧々の言葉に言葉を被せ、発言を静止させた鷺ノ森。

「分かってほしい。納得してほしいとは言わない。ただ、理解してほしい」

「・・・でも・・・」

涙を流しながら言葉を詰まらせ、安奈のほうを見る寧々。

下を向いていた安奈はゆっくり立ち上がり、顔をあげた。


「分かりました。私が処刑されます」

安奈の目に迷いはなかった。

泣き崩れる寧々。



日本政府は他国からの侵略を最重要危惧事項と位置づけ、黒薔薇の騎士団に回答した。


<テロリストの要求は吞めない>

誤字脱字は適宜修正します。

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