兆し③
2045年、4月25日 午後2時
三者面談から、約1週間が経過した。
蒼助と安奈はほとんど口をきいていない状態が続いている。正確には蒼助が声をかけると返事はするが、安奈からの返答がない状態だ。
蒼助はパソコンのおいてあるデスクの前に座り、キーボードを叩きながら安奈との関係修復の方法を模索していた。
「こ~ら、暁君。仕事中にぼーっとしない」
そう言って、蒼助の頭にキングファイルの角で軽く叩く女性がいた。
「大濱さん、すみません」
彼女の名前は大濱千鶴。蒼助の1つ上の先輩であり、同じ部署の上司である。
身長は160cm弱、背中まで伸びる茶髪をポニーテールでまとめている。性格はさばさばしており、目つきも若干釣り目気味のため、一部の人からは遠ざけられているが、基本的に男性だけでなく女性からもそこそこ人気のある女性だ。
何を隠そう、蒼助も少し気になっている先輩である。
「何か悩み事?」
大濱は蒼助の隣に立った。
「あの、妹と喧嘩しちゃって。」
苦笑いを浮かべながら蒼助は大濱に返事をした。
「あぁ、よく暁君が自慢してる妹、えっと安奈ちゃんだっけ?なんでまた喧嘩なんかひはの?」
蒼助の机の上に置いてあった、のど飴を勝手に食べながらしゃべる大濱。大濱の好きなレモン味ののど飴。そのため、非常に可愛い笑顔を見せている。
時折見せる、可愛い笑顔と日頃のきつそうな感じとのギャップに蒼助はドキドキしている。
「まあ、安奈の将来についてちょっともめてしまって・・」
言葉を濁すように下を向く蒼助。
「そっか・・。まあ、年頃の女の子だからね。仕方ないよ。」
蒼助のバツの悪そうな雰囲気を感じ取り、深く詮索をしない大濱。
こういった見えないところでの何気ない気配りができるところを蒼助は特に尊敬している。
そんないつもと変わらないやり取りをしていた蒼助。
そう、こんな時間がこれからもずっと続くと思っていた。この時までは・・・
部署の誰かが慌ただしくテレビの電源をつけた。
テレビからは、けたたましい銃声と煙。そして、蒼助には見覚えのある場所が映し出されていた。
「清漣高校・・?」
ぽつりとつぶやいた蒼助。
そして、次に衝撃的な映像が、蒼助の目に飛び込んできた。
「そんな・・・なんで・・・」
清漣高等学園に覆面を被り、防護服を纏った集団が学園を占拠していたためである。
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時は遡ること、2045年、4月25日 午後1時50分
授業と授業の合間の休憩時間。
安奈は机に突っ伏していた。
「はああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
大きなため息が口から洩れる。
「何かあったの、安奈ちゃん。最近ずっと元気ないけど。」
そう言って声をかけたのは安奈のクラスメート、安室 寧々。
安室と安奈は、この学園に入学してからずっと同じクラスであり、また一番の親友である。
だからこそ、日ごろ他人の前で作り笑顔を浮かべる安奈も、彼女の前では素の自分を見せるのだ。
「お兄ちゃんと喧嘩しちゃって。。その、仲直りしようにも、時間が空きすぎて気まずいというか、いうか・・・」
突っ伏したまま、ぶつぶつ言う安奈。
そんな安奈の頭をゆっくりとなでる安室。
「素直に謝っちゃえばいいんじゃないの?」
安室の返事を聞いた途端、勢いよく顔をあげる安奈。
「そそそ、そんなことできたら苦労しないよ!!」
顔を少し赤らめ、早口でしゃべる安奈。
そんな彼女を見て、隣で笑う安室。
そう、こんな何でもない日常が続くとこの時は彼女たちも思っていた。
突然、ピキーンという甲高い音とともに、校内放送のスイッチが入った。
教室にいる生徒、廊下にいる生徒、みな校内放送に視線をやる。
そして、次の瞬間、事態が急変する。
「あー、あー。この学園は我々、『黒薔薇の騎士団』が占拠した。貴様らには、日本政府との交渉材料として、人質になてもらう。」
突然の出来事、誰しもが頭の中が真っ白になり、現状把握できていない状態である。
ただ一人、暁安奈を除いては。
「違う。騎士団はそんなことしない。」
そう言って、すぐに携帯を取り出し、警察に連絡をとる安奈。
そう、彼女の瞬時の判断があったからこそ、蒼助がテレビで状況を確認したとき、警察と黒薔薇の騎士団との銃撃が映ったのである。
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