思惑と計画
「ふむ、マルタの街付近にできた新なダンジョン……か」
「いかがなされますか?」
とある一室にて二人の男女が対話をしている。
部屋の壁には沢山の書物が並んでおり置かれている家具も見るものが見れば一級品だと言うことが分かるほどのものばかりでシンプルながらどこか重みも感じる部屋だ。
「放置で構わん」
その部屋の主であり報告に来た女性よりも遥かに位の高いその男であり国の王、アドル=ローレルは言う。
「……よろしいのでしょうか」
「ダンジョンはギルドの管轄であって俺の仕事ではないからな、こっちもこっちで他にやることが山ほどある」
淡々と業務をこなすように受け答えだけをしていくアドルは机に置かれている大量の書類を片付けながらもどこか余裕綽々だった。
だがそんなアドルも少し気がかりになる。基本的に国はギルドに冒険者の事などに関してはすべてを任せている、未知の魔物にしろダンジョンにしろだ。
これは国が始まった時からの条約であり、契約なのだ。ギルドは魔物の駆除や未知の探求をし国へと貢献し、国は冒険者の戸籍を保証すると言う互いに利益のある関係だ。
ダンジョンの件に関してはそれこそギルドの仕事である。
それをわざわざ国王である自分の所にまで持ってくるだろうか?と。
「マルタの街と言ったな……差出人はアイツか?」
「えぇ……マルタのギルドマスターです」
「やっぱりか、あのクソババァ」
苛立ちを隠しもせず頭を抱えるアドル、人前ではそんなことは滅多にしない男だが自分の秘書である女性とは友人関係であるため女性からすればいつも通りとと微笑んでしまう。
ともあれ恐らく厄介ごとを持ち込んできたであろう旧知の知り合いであるギルドマスターからの要請には答えなければならない、アドルは秘書からの手紙を渋々受けとる。
「厄介ごとじゃねぇか!」
今までの仕事のできる雰囲気を纏った男はどこへやら、アドルは手紙を書類だらけの机に叩きつける。
「なんだよダンジョンの妖精って……聞いたこともねぇ」
冒険者ではないものの、ギルドとのやり取りの為に冒険に対する知識はそれなりに備えており、王宮備え付けの古い本なども読破しているがダンジョンの妖精等と言う記述はどこにも記憶になく、それから次々と書かれている情報に困惑する。
「アドル様、楽しそうですね」
秘書の女性は端から見れば仕事に押し潰され躍起になっているような態度にしかみえないアドルをそう評する。
「……幼馴染みには隠せないな」
剥れっ面をその女性、名をレイラと言う、に向けるがすぐさま表情を変える。
「昔から未知が好きだったじゃない、その位は分かるわよ」
普段は例え二人きりであっても言葉を崩すことはないレイラであったが昔の事を思い出したのか口調が崩れる。
「小さい時から城を抜け出しては冒険者ギルドに入り浸ってたものね、探すのが大変だったわ」
「苦労人みたいに言うがお前だって冒険者の話を熱心に聞いてただろうが」
「あら、なんのことかしら」
少しの間だが昔話に花を咲かせ、本題に戻る。
「本題に戻る、つまりこのババァが言いたいことは戦力を寄越せってことだろ……具体的には『竜狩り』だろうな」
マルタの街は比較的穏やかな街であるため冒険者の質はそこそこである。
どんなにランクが高くても能力をみてみれば猛者の集まってくる王都と比べると見劣りする。
「確か今戻ってきているのよね?」
「あぁ、なんでも親バカ騎士団長殿が連れ戻したらしいからな。それはこっちにも好都合だったから許可したが……ふむ、兼ねてからの計画にダンジョンは使えそうだな」
「以前話していた奴かしら?」
「そうだ」
この二人だけにしか分からない、誰にも伝えていない計画を思い出す。
「『竜狩り』を王都に呼ぶことを許可したのもそれが理由だ、あれは必要だからな」
「確かに、あの強さを手本には出来そうだものね」
「それより、口調が元に戻ってるぞレイラ」
「あ……申し訳ありません」
漸く気がついたレイラは慌てて口調を直し、顔は真っ赤であった。
それを見たアドルは思わず笑ってしまう。
「冗談だ、周りに誰かがいるならともかく二人だけなら気にすることはないぞ、何度も言ってる」
「は、はぁ、では……冗談がキツいのよ……」
じっとりとした目でアドルを睨む。
「計画へと利用するために今回はあのババァの要請には答えてやろう、こっちもダンジョンの情報は欲しいからな」
「それは貴方個人の趣味の為かしら?」
「ここのところ娯楽が無かったからな、新しい冒険に飢えているんだ、また冒険がしたいものだ」
「はぁ、それをしてしまって死にかけたのは何処のお馬鹿さんかしら」
「俺はなんの後悔もしてないけどな。あれは良い経験だった、なれるなら冒険者になるのもまた良いかも知れんな」
「国民が許さないわよ」
「分かってるさ、そんなことは。だからこそ他人の冒険話を聞いて楽しんでるんだろ?」
再び書類に目を通しサインをしながらも話を続ける。
「まぁ普通にダンジョンから魔物が出てきて街が襲われるのも良く無いからな、強い冒険者を派遣するのは当然だな」
ダンジョンは至るところに存在し、その脅威度はピンキリだ。
だが、ダンジョンからは時々魔物が外に飛び出してくることがありその殆どは低級の浅い階層の魔物ばかりではある。
それでも極たまに強力な魔物が飛び出し村を壊滅させたこともあり、それから王国はダンジョンを攻略した暁には周辺に管理する街と冒険者を置く様に対策をしているのだ。
ダンジョンコアと言う存在も既に認知されており、破壊すればダンジョンが崩壊すると言う結果も知ってはいる。
それでもダンジョンから魔物が出てくるのを止めるだけと言う対策しかしないのは、一重にダンジョンからのお宝などがバカにならない価値を秘めているからだ。
国としては崩壊させるべきではあるがダンジョンの事に関してはギルドの管轄でありあまり大きくは言えず、そのまま任せている。
もっとも何代か前の国王は崩壊させようとして冒険者から孟抗議を受けたそうで、そこからは大人しい。
そして冒険者の派遣についてはその都市のギルドマスター、それから領主へと要請を送り許可を得なければならない。
今回の場合は王都を収めているのは国王であるアドルと王都ギルドマスターだ。
「計画事態はいつ頃実行するのかしら?」
「それについてはもう少し条件が揃ってからだな、具体的には俺の手があくまでだ」
「今やっても手付かずになりそうだものね、当分は手は出せなさそうね」
書類の山を見つめレイラは苦笑いを、アドルは若干不機嫌になる。
「ったく、帝国のアホどもめ何もこんな時期に戦争なんて仕掛けてくんじゃねぇよ。暇か、どいつもこいつも!」
「いっそのこと計画の一部にでもしてみたら?」
「それはダメだな、道具じゃないんだ。その牙をこっちに向けられても困る、戦争はこっちで対処する。まぁ、親バカ騎士団長殿がいる時点でこっちの勝利に代わりは無いからな」
「となると、少なくても半年くらいかしら?」
「まぁ、そうなるな」
遂に書類全てを片付け、レイラが入れた飲み物で一息つく。
「さて、これから大臣達との打ち合わせだな。さっさと終わらすか」
「そうね、ダンジョンのこともなるべく早く片付けたいものね」
「あぁ、その為には動かなきゃな……行くぞ」
数秒前のお調子者の様な雰囲気を取り払い、眼光は鋭くいつもの王然とした態度に戻り、執務室から出ていく。
「始めるぞ『勇者召喚』を」
誤字脱字ありましたらお願いいたします。
いつも報告ありがとうございます、それだけで嬉いんですよね!




