ダンジョンの猛威
忙しかった。遅れてごめんなさい。
次は早く投稿しますね!
「おい、簡単過ぎやしないか?」
ダンジョンに入り数十分、入り口付近で装備の調整をし万全を期して最大限の警戒をしながら冒険者一同はダンジョンに入った。
一応それなりに危険とは言えダンジョンの入り口からすぐはそれほど危険がないのは冒険者周知の事実だ。
罠や多少のモンスターはあれど性能が稚拙だったりランクがほぼ最低ラインでしか出てこないのでベテランとも呼べるランクにいる彼らにとっては多少は緊張感を持つものの、そこまで警戒をする必要性はない。
だが、油断は出来ないと言う思いもあった。
マルタの街の冒険者の質は比較的普通と言うところだ。周辺に危険な地帯はないし、凶悪な魔物も出る訳ではない。
唯一恐れられていたのはマルタの街を半日ほど行った先にある森林、それよりも少し先に何十年も前に魔物の集団に襲われ滅びた村。そこで発生したアンデット達位のものだった。
ともあれ、そこから魔物が動くことは無いので実質恐れるものはなく平和である。緊急性の依頼もそれほどなく、のんびりと暮らすなら良い街だ。
平和なぶん、冒険者の質もそれに伴い落ちて行くのだ。マルタの街でCランクで活動していたとしても王都や魔物の多い街などではそのランクより下程度の実力しかないだろう。それでもそこそこ実力はあるが。
その中でもちゃんとランクに見合う実力を持つもの達もいる。それが今回冒険者達を金で吊り上げ地獄へ招待したキン、ギン、ドウの3人組こと冒険者パーティー『黄金比率』
実際にこの3人はそう名乗ってはいないが、戦士に斥候、魔法使いと言うバランスに優れ各々能力も高く隙はあまり無いのでそう呼ばれている。
この3人はマルタの街を拠点としているが様々な場所に調査や採取、討伐などを行うため王都でもそこそこ名の知れた地域に寄り添うタイプの王都住民人気投票3位の冒険者だ。
そんな彼らの言う言葉は何よりも信憑性が高く、あまり隙の無い優れた『黄金比率』のパーティーを不意打ちとは言えなにもさせずにボコボコにしたダンジョン、1層だろうと油断する訳には行かなかったがすんなりと下る階段を見つけてしまい、思わず拍子抜けするほどだった。
「おいドウ、お前達のときもすんなり行けたのか?」
「いや、俺達が来たときは階段の発見はおろか録に探索も出来なかった……不気味だな」
以前起こった何もできずに終わり命乞いするような形でその首を繋げた犠牲者……と言うほどでもないが最初に訪れたパーティーの一人である、茶色のローブに身を包んだ年の頃は20代後半に差し掛かるであろう男、ドウは気掛かりに呟く。
「キン、お前はどう考える?」
「あん? 考えなんて分からねぇよ、ただ直感的には遊ばれてる気もするな。奥まで来れるもんなら来て見ろってな。お前はどうだギン」
同じく呆気なく拘束された一人であるパーティーメンバーの戦士職であり、筋力には自信のあるキンは意見を述べ盗賊系スキルを持つまだ十代の実の弟、警戒して辺りを見渡しているのか人見知りで緊張しているのか分からないがあちこちに視線を泳がしているギンへと視線を向ける。
「そ、そうだね。兄さんの言う通り遊ばれてるかも知れないけど……様子見だと僕は思います」
いきなり話を振られ驚きのあまりに上ずった声を出しつつも、自分の意見を告げる。
「様子見?」
「は、はい。ドウさんは以前このダンジョンは出来立てだって推測したと思うんですが、それならあのスライムの強さは辻褄が合います」
「続けてくれ」
「はい。もしかするとですけど、ダンジョンはあのとき戦力が無くて、それでタイミング悪く僕たちが訪れた。焦ったあのダンジョンの妖精は最高戦力のスライムを投入することで僕達を倒し時間稼ぎをしたんだと思います」
ギンは己が思う推測を立てる。キン達の前に突如として現れたダンジョンの妖精などと宣う謎の存在、一見圧倒的に有利な様に見せかけてはいたがそれは虚勢であったと言うこと。なるほど確かに、そう言う話しならば辻褄も合う。
「ギンの推測が正しければあれは演技だったと言うことになるな……まさか騙されるとは」
「あのときは僕らも冷静じゃなかったので仕方ないとは思います」
「ま、なんにせよ助かったんだから良いじゃねぇか。それより、今の話をしようぜ?」
先程までの話はあくまでも最初に訪れたときの話だ。あの時からは既に何ヵ月も経っている、当初まだダンジョンが出来上がって居なかったとしてもこれだけの時が経てばダンジョンは完成しているはずなのだ。
「ダンジョンの事は俺達がどうこう言っても仕方ねぇ。ダンジョンの成長速度なんざ聞いたこともねぇけど、あのスライムが流石に最高戦力なら直ぐには出てこねぇんじゃねぇか、あれが階層ボスだったとか」
世界にはそれこそ沢山のダンジョンがある。ダンジョンについては研究や調査は進められてはいるが分かっていることはかなり少ない、それこそ全体の1割にも満たないほどだろう。
出てくる魔物の数やどんな罠が仕掛けられているかもバラバラであり規則もない、まだ幾ばくは安心して踏み込めるのはマッピングと完全に攻略されたダンジョン位のものだろう。
だが、ある程度の規則性は読めているのだ、例えば罠の種類などは落とし穴などが統計的に多く魔物もその生態にあったフィールドに出現するなど、階層を見ることである程度は察することは出来る。
そして1番情報が少ないものは階層ボスと呼ばれるものだ。主に階層と階層の節目にあると予測されているその部屋はシンプルな作りではあるし1匹しか魔物が出てこない。だがそれがかなり厄介なのだ。
出てくるまでは何が来るのか予測も出来ず、対策も初見では立てようもない。それに普通の魔物よりも実力も能力も段違いな魔物、ダンジョンにおける階層ボスと呼ばれる化け物だ。
『黄金比率』の3人に抵抗もさせずに無力化したとなればそれくらいしか思い当たらないし、思いたくも無いだろう。
「階層ボスは1匹が基本だろ、俺達には6匹近くのスライムにやられたんだぞ? 階層ボスとは考えられないな」
「ぬぅ、じゃああれが普通だってのか……考えたくもねぇな」
「大丈夫だ、今回の為に準備も整えたし備えれば幾ら奇襲と言えどこの人数なら何とかなる筈だ」
「……ま、なるようになるか」
そして冒険者の一同はスライムを重要に警戒して先に進むことにし、階層を下っていく。
◇◇◇
「ここもさっきと変わらねぇな? 当然っちゃ当然か」
「俺たちもここから先は未知の領域だ。さっきの階層では魔物は見かけなかったがここにいないとも限らない。油断せずに行くぞ」
階段を下りた先には上の階層と同じような森であった。が、それに関して驚くものは少ないのだ。
ダンジョンは深く長い、それこそ攻略をする際には何日分もの食料や武器、装備のスペアなどが必要になり、大荷物を抱えることになるので冒険者はダンジョンの攻略に挑む際には大量の荷物を用意することは前提で動くのだ。
それから暫くの間罠もなく魔物も現れない状態で危険性もなくダンジョンの攻略は順調そのもので冒険を生業とする冒険者から見れば退屈以外のなにものでも無く、とあるパーティーが痺れを切らした。
「俺達はここから好きにさせて貰うぜ」
屈強な体つきのスキンヘッドの男が言う。背中には巨大な戦斧、バトルアックスと呼ばれる武器を携えた冒険者と言うよりも戦いを生業とする傭兵の様な男だ。
「危険だと言ったのが分からなかったか?」
「危険だぁ? これのどこを見てそんな台詞吐いてんだよ。こっちはそもそも戦う為に来てるってのにちんたら探索しやがって、我慢の限界だっつーの!」
背中に背負ったバトルアックスを近くに偶然生えていた木へと勢いよく振り回し叩きつけ斬り倒すと言うよりは叩き割ると言う表現の方がしっくりくる程木っ端微塵に破壊する。
内心で舌打ちをするものがいた。そして遂に来てしまったかと言うある種の懸念材料が見事に爆発したのだ。
バトルアックスの男……コーザは見た目からして傭兵やゴロツキの親分にしか見えないが普通にその通りでありゴロツキから傭兵へとジョブチェンジした後、戦争の少ないこの国で資金を貯めるために冒険者になった。戦争の多い国へと出向くためだ。
戦闘力は高いが、協調性と言う点に置いては初心者冒険者の方がマナーを守れると絶賛の嵐であり、採取などはもっての他で討伐などを主に活動しているコーザとそのパーティーだが、ドウはやはり連れてきたのは失敗だったかと反省する。
恐らくはダンジョンの攻略難易度は高く最終的には戦闘力が物を言うだろうと高を括り、嫌々馬の合わない彼らを連れてきたがどうやら限界の様だった。
怒鳴り付けた後、コーザとその一行はズカズカとなんの警戒も無しに奥へと進んでいく。
「なんだよアイツら、少し位は協力しろよ!」
「これだから傭兵崩れは……あーあさっさと他行かねぇかな」
「この間なんて女に手ぇ出したらしいぞ」
「クソだな」
それを背後から見送る形となった冒険者達は各々が不満を吐露していく。
「すまない、これは俺の責任だ」
「ドウ、んなこと気にすんなって。遅かれ早かれこうなってたさ」
「そ、そうですよ、寧ろ連れてこれたのは凄いと思います。それに、これはこれで結果的に良かったかも知れないです」
ダンジョンに入ってから先行して罠や魔物の索敵に順次していたギンが言う。
「彼らが先に行ってくれたお陰で罠なんかも一々探さないで済みますし、罠や魔物が有るとしても彼らに任せましょう」
「囮か……なかなかエグいこと考えるな、ギン」
「適材適所ですよ、ドウさん」
にっこりとそれはもう爽やかに微笑むギンはコーザ達を言ってしまえば生け贄にしつつ先を目指す事を提案する。
◇◇◇
傭兵崩れは良く言えば勇敢であり悪く言ってしまえば蛮勇、無知であるとも言える。
それは戦争に駆り出されて人を殺すことにより自身は生き延びる生活が直ぐそばにある傭兵にとって恐れと言うものはあまりない。
現にコーザ率いる傭兵崩れパーティー『虎狼の戦斧』は邪魔な木や茂みを切りつけ時には踏みつけながら警戒無しに進んでいく。
「はっ、こんな詰まんねぇ所じゃ戦いには期待出来そうにねぇなぁ」
「待ったくだ。強いやつがいるからって乗ってやったってのに、何もいねぇ」
「あいつらも見る目が落ちたな、だっはっは!」
退屈だからだろう、警戒は殆ど解き談笑する余裕すら見せていく『虎狼の戦斧』の面々はそのまま進む。
「報酬もそこそこ良かったし楽な仕事だ」
「それにここを攻略しちまえばもっと金が手に入るぜ? 暫くは遊べそうだな」
「他所に行く資金にするって前にも言ったろうがぁ! 少し位我慢しやがれ!」
戦えないことによりストレスの貯まっているコーザは仲間へと怒鳴り散らす、こうなってしまっては何時矛先が自分達に向くか分からないので金の話はそこまでにしておく。
「それにしても、ダンジョンって意外と楽だな。拍子抜けだぜ」
「あん? あぁ、どんなとこかと思ってたが所詮冒険者が言うことだ、宛になんねぇなぁ」
このパーティーがダンジョンに赴くのは初めての事だった。何せ主に討伐依頼しか受けず他の依頼などは見向きもしないまさに脳筋を絵に描いたような面子だからだ。
「にしても邪魔臭ぇなこの森は、鬱陶しくなるぜ」
「なら一丁伐採でもしてやるか? 後ろから着いてくるビビり君達のためによ?」
「はは、俺達は優しいな! 良しそこら中狩りつくせ、ストレス発散だ!」
今までの鬱憤を晴らすように、コーザとその他3名のパーティーは周囲の木々に各々の武器を叩きつけていく。
鍛え上げられたその肉体からは「戦闘力だけなら指折り」とまで言わしめるマルタの街のギルドで嫌われているコーザ達はその力を存分に発揮しものの数分で大量の木を伐採していく。
「どうする、後ろの奴等を待つかコーザ?」
「バカ言ってんじゃねぇよ、馴れ合うつもりなんざねぇ。さっさと行くぞ」
「な、なぁおかしくねぇか?」
「あん?」
さっさと下に降りられそうな階段でも見つけようと動き出そうとしたコーザだが、仲間の声で動きを止める。
「どうした」
「いや、木がいつの間にか戻ってないか?」
「はぁ?」
何をバカなことをとコーザは仲間へと告げようとするが違和感を覚える。辺りを見渡すと数メートルは切り分け幾分か見渡しを良くした筈の自分達が経っている場所が狭く感じるのだ。ほんの数秒前よりも。
「どうなってやがる……ッ!?」
長年の戦闘勘からか咄嗟に振り返り背中に終ったバトルアックスを振り切る。すると何かを切った感触を確かめ切り落としたそれを見る。
「枝?」
何故に枝? と考えを巡らそうとするが事態は急変する。
「うわぁぁぁああ!?」
「木が動き出した!?」
「ッ! バカ野郎、とっとと対処するぞ!」
突如として周りに生えていた木々から枝が鞭のようにしなやかに、時には槍のように鋭く更には触手のようにうねりをあげながら猛威を振るう。
いつでも戦闘に入れるコーザは一瞬驚いたものの、即座に切り替えて迎撃していく。
「ぐぁあぁぁぁ!」
後方から仲間の声が聞こえ、振り向くと反応しきれなかったのだろう仲間の一人は身体中に枝が巻き付いており締め付けられ、バキボキと何かが砕ける音と痛みからか奇声を発する。
前触れ無しに起こった自然の暴力に対処をしていくが更に犠牲者が出始める。槍のように鋭くなった枝が太股や肩など様々な場所を貫き、身動きが取れず苦痛に喘いでいる内にあっさりと心臓を一突きされ命が断たれる者。
鞭のように高速の連打が繰り返され対処が何も出来ずに全身を青く腫れ上がらせ顎を砕かれ叫ぶことも出来ずに撲殺される者。
そうこうしている内、ものの数十秒奇襲に対処できなかった物達はその生涯を閉じ実に容易くコーザ一人となる。
「冗談じゃねぇぞ、死んでたまるかよ!」
対処をしつつ時には反撃していき自分の何倍もの数に五分五分の戦いをしていたコーザであったがそれはパーティーと言うヘイトの分散があってからこその話だった。
最早自分1人しか残っていない戦闘において他の3人が相手をしていた木々もこちらに矛先を向ける訳で。
「クソッたれがぁぁぁぁぁああ!」
こうして傭兵崩れ冒険者『虎狼の戦斧』は崩壊した。
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