魔物の強化にあたって(蛇足)
ダンジョンに必要な要素とは何だろうか。
絶え間なく訪れる冒険者達を阻む罠や仕掛け、長く辛い簡単には攻略させてくれない環境の変わるマップやエリアと呼べるものだろうか。
どれも正解だし正しいだろう。
だが、それだけではダンジョンは成り立たない。
どんなに強烈なトラップが仕掛けられていようと時間を掛けてさえしまえば呆気なく解除され驚異とは呼べなくなる。
どんなに過酷な環境であってもそれに適応できる道具やアイテム、スキルや魔法などがあるこの世界に置いてはしばき倒す術の有るものに蚊を飛ばすような物だ。
答えは魔物だ。
魔物という、たった1つのファクターにより、先程言った物は全て覆るのだ。
強烈な罠は時間を掛ければ解除出来るかもしれないがそこに魔物が襲ってきては対応に終われさらに時間もかかる上に一歩でも間違えればその罠で命を落とすかもしれない。
過酷な環境であるエリアでもその場に既に適応された魔物がいればたちまち戦わなければならず、魔物と戦うにはある程度は身軽でなければ環境以前に魔物の格好の的にしかならない。
魔物がいることによって、強烈な罠はもっと強烈になり過酷な環境はその猛威を十全に振るうことが可能となる。
つまり魔物とはダンジョンにおいて何よりも優先すべきものだと俺は考えている。
結局ダンジョンの方に現を抜かしたのは内緒だ。
とまあ、魔物も罠もエリアもダンジョンに無くてはならないものだ。
罠にエリアはある程度下地を整えることが出来た、ならばその次は魔物を強化するべきだろう!
さてそんな訳で村エリアまでやって来た。
改装が増えたことにより第何層と言う呼び方は億劫になってきたのでエリアごとに今後は呼んでいくとしよう。
「ん、あれは……」
村エリアの形としては囲碁版の様な、昔の城下町風にある程度綺麗に家が立ち並んでいる構造だが、中央の広場としている場所は大きな空間を作って皆の交流の場や子供が遊べるよ工夫もしている。
最初作った時は学校の運動場みたいだなぁと思ったものだ。
今回はここに用事はないので軽くスルーして広場を突っ切って階層の端辺りまで行く。
目的の場所は広場を横断しなければ行けないので人目、いや魔物目につくわけで。
「あら、マスターじゃない。この先に用事かしら?」
「お、マスター! ちゃんと飯食ってるか!」
「マスターだ! 遊びに来たの!?」
などなど、来るわ来るわゴブリン、ホブゴブリン、オークの群れよ。
もう少しでこの下の村エリアは完成するらしいが、仲が良くなったホブゴブリンとオーク達は住み家を分け隔てる事なく一緒のエリアに住んだり遊んだりと大変有意義に過ごしているらしい。
なお、こちら平和に暮らしている様だがもれなく全員が戦闘要員である。しかもバリバリに鍛えているらしく、滲み出る雰囲気が凄い。
そんな彼らに内心ビビりつつ会釈や挨拶を交わしつつ目的地へと足を運んだ。
◇◇◇
「どりやぁぁぁぁあ!」
「まだまだ甘いわぁぁぁぁ!」
お、やってるな。
遠くにいる筈なのに間近で話しかけられているとさえ錯覚できるほどの大声が上げられている方へ向かう。近所迷惑なので止めて差し上げろ。
「くそ、やっぱり十勇士クラスには手も足も出ねぇか……!」
「つ、強すぎでごわすよ……」
俺が辿り着いたときにはみるも無惨な光景が広がっていた。
大量のオークとそれなりのホブゴブリン達がボロボロに山のようになって倒れており、その頂点に真ん丸い赤い物体が……。
「某は十勇士ではないと言っておるだろう、総大将ユキムラにござる!」
丁度山の頂点となっているホブゴブリン族長の上に立っているユキムラは間違われたことに腹を立てたのか死に体の族長達の上で跳ね回っていた。
「おーいユキムラ」
「むっ!? これは主!」
俺が呼び出すと死体の様に倒れているホブゴブリンやオークの山の上から軽快に俺の方までユキムラが飛んでくる。
「わざわざ足を運んで頂かなくとも、このユキムラ何処へでも参りましたぞ!」
「いや、今回ばかりはちょっと実験もあるからな、ここなら広いし丁度よかった」
「なるほど、そう言う事で御座いましたか。主の考えを理解できぬこのユキムラを何なりと!」
さぁ罰しろ! と言わんばかりに迫ってくるユキムラをプニプニしつつ断る。
「そんなんで罰するか。それにユキムラは大切な仲間だぞ、失うのは嫌だ」
戦力的な意味で。
なんて事を考えていると。
おや? ユキムラの様子が……。
「うぅぅぅぅ」
え、何コレなんか滅茶苦茶震えてるんだけど、何なのコレ。
も、もしや脱皮か? 脱皮して真の姿になっちゃうぜ的なあれか?
「主ぃぃぃぃ! このユキムラ感激しましたぞぉぉぉぉぉ!」
あー、違った。
なんか知らんが感銘受けたのかそれで震えてただけだった。進化とかじゃないのか、チッ。
それにして咄嗟に耳を抑え前屈みになるくらいには鼓膜に来るほどでのどこから出してんだその声量はと言うレベルで放たれた咆哮は俺は兎も角ピクピクと辛うじて動いていたホブゴブリンやオーク達には甚大な被害を与えたようだ。
「ナニモ、キコエナイ」
「ココガ、テンゴク?」
など言った後にピクリとも動かなくなった。御愁傷様です。
「ユキムラにお願いが有るんだけれど」
「某は主の頼みなら例えこの身が果てようとも完遂致します!」
「そんな大層なものじゃないから身構えなくて良いよ」
ユキムラを抱えて少しだけその場を移動し降ろす。
「主、何をするのですか?」
「んぁー、ユキムラをもっと強くしようと思ってな」
「それは! そんなことが可能で!?」
「だから取り敢えず実験だ。失敗したら済まないな」
「いえ、某はこの身を主に捧げた身、どうなろうと恨むことはありませぬ!」
なんて立派な部下だろうか。こう、忠犬って感じがするぞ。どこぞのラビィとは違うな。ともあれ了承は得たことだし本題に入っていこう。
何がきっかけになっているかは知らないがダンジョンが著しく成長すると増えていく俺のマスター権限、その中の放置しておいた1つを使っていこうかと思っている。
おや、待てよそもそも俺は一体幾つの権限を持ってるんだ? ちゃんと確認してなかったしここらで見ておくか……いや違うぞ、ゴタゴタしてて忙しかったんだ断じてサボっていた訳ではない。
権限
メニュー
『カタログ』
『ヘルプ』
『ダンジョン』
モニター
階層転移
階層念話
スキル付与
魔法
最下級火魔法【火種】
最下級水魔法【水玉】
最下級風魔法【扇風】
最下級土魔法【土壌】
最下級光魔法【提灯】
最下級闇魔法【暗転】
スキル:
【魔物化】
メニュー『カタログ』
この世界、あるいは別世界にある物をDPと引き換えとして持ち込む事が出来る。食べ物や道具などその選択出来る物質に際限はなくダンジョンの強化魔物の召喚に必須。
メニュー『ヘルプ』
世の理を知るダンジョン権限の1つ。それは知識の全てであり世界の全て、その知恵は愚かな者に与えられることは叶わず己を知らぬ者に授ける知識もない。
メニュー『ダンジョン』
それは迷宮を支配する者の特権であり全て。その姿は主の思うがままに意のままに姿形を変え、訪れる侵入者を受け入れ、阻み、拒絶する。
モニター
その目は全てを見定める。限られた主の目はその支配する領域において如何なる事象を見逃さず透かす。その目から逃れるものは何人足りともいない。
階層転移
主は彷徨う。そしてその姿を目にする物、者は無くそ姿を捉える事は出来ない。主の裁量により現れ消える。
階層念話
それは全てを繋ぐ支配者の偉業。慈悲は眷族にも化し与えられ繋がりを許す。結束は力となりて来るべき時に備える導ともなる。
スキル付与
主はその力の一端を眷族へと譲渡される。その一端は一部でしかなく全てを見ることは叶わない。愚かな者には理解など出来ないのだから。
最下級火魔法【火種】
生活魔法の1つ。暖かい。焚き火を起こす以外の使い道は特にない。そこそこ便利。
最下級水魔法【水玉】
生活魔法の1つ。飲める。水分不足には打ってつけ。そこそこ便利。
最下級風魔法【扇風】
生活魔法の1つ。涼しい。寝苦しい夜にはこの魔法。そこそこ便利。
最下級土魔法【土壌】
生活魔法の1つ。揺れる。土遊びや少し均すには使える。そこそこ便利。
最下級光魔法【提灯】
生活魔法の1つ。明るい。1人寂しい夜には慰めてくれるとか。そこそこ便利。
最下級闇魔法【暗転】
生活魔法の1つ。暗い。命の危機に使うと生き残れるかも。そこそこ便利。
【魔物化】
それは異形のものを生み出す禁忌。人を物を全ての生殺与奪はその掌にある。
うん、説明どうなってんだコレ!?
おかしいな、ちょっと『ヘルプ』に頼んで整理してみたらこうなったんだが!?
権限辺りの説明が分からない。説明なのに説明してないし……いや良く読めば「あー、なんか分かるな」位は分かるけど分かりにくいわ!
魔法に至っては手抜き感あるぞおい『ヘルプ』!
「これはきっとヘルプさんの遊び心に違いない。そうでなきゃなんか怖いし」
うん、きっとそうだな。
そうに違いない。
そうだと言ってくれ!
いやー『ヘルプ』にも遊び心があって面白いなーアハハ。
多分言い回しが好きなんだろうね。よし、深く考えるのは止そう!
権限も知れたことだし俺の頭は許容量が限界突破しそうだ。帰ろう。
「あ、主? 実験とは一体……?」
あ、忘れてた。
反省も後悔もしていない。
そしてこの主人公、現実逃避と話を脱線させるのが特技。




