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体育祭も楽しまなきゃね(校長談) 7


 部活のない9月13日水曜日の放課後だ。

 私は今学校から少し離れた河川敷にある小さなグランドにいる。

 体育祭の二人三脚でペアになった陸上部のオオガキ君と練習をするためだ。オオガキ君と校庭に出たが、何しろ1年生全員が部活のない今日を狙って練習を企てているものだから、校庭のそこら中が二人三脚ずくめで、そんな中で県大会出場で表彰までされたオオガキ君と走る勇気は私にはないな、と思っていたらオオガキ君が言ったのだ。

「ごちゃごちゃしててかったるいから、オレがたまに練習に使ってるとこ行こう」


 高く青く晴れ渡った、それでも秋の匂いがちゃんと含まれている空の下、少し離れたところにゲートボールをしているお年寄りが見える。私たちは二人とももちろん体操服だ。上は白の半そでに肩の所へ黄色い線が入り、下は膝上の水色のハーフパンツで両脇に黄色い線が入っている。1年は黄色い線だが、2年生は青、3年生は緑の線が入っている。



 「ごめんね」と練習前に言う私。

「はいはい」とオオガキ君。「ごめんねばっか言うね!ちょっと面白いけど、でもがんばろうよ。がんばりたいんでしょ?作文なんて書かされたくないもんね?」

「うん」と力強くうなずく。「まず転びたくない。よろしくお願いします」

「よし。ではハチマキ出して~~~」

言われて水色のハーフパンツのポケットからハチマキを出す。クラスごとに色が分けられていて、私のクラスは黄色、オオガキ君は赤だ。


 

 「じゃあまずオレからね」

男子がトラックの外側を走る方が良い、という事で私が左、オオガキ君が右側に立つ。オオガキ君が先にかがんで自分の鉢巻きで私の足と自分の足を結び、私も同じようにかがんで黄色い鉢巻きで同じように結ぶ。

「わ~~~」とオオガキ君が言った。「なんか…やっぱ女子の足とくっ付くって緊張するわ!なんかちょっと恥ずかしい」

うん、と私もうなずく。

「オレ顔赤くない?」

ううん、と首を振るが、オオガキ君がそんな事言うから私もソワソワして来て聞いた。

「私が赤いんじゃない?」

「うんすげえ赤い」

「マジで!?」

「うそ」

「ダメだ…」と両頬を抑えてしまう。「今のですごい赤くなったような気がする!」


 「よし」とオオガキ君が言った。「まずこの恥ずかしさを乗り越えよ!」

うん、とまたうなずく私だ。

「あ、そうだ、聞くの忘れてたけど、今日クラスでなんかないよね?」

「なに?」

「みんなで本当は応援とかダンスの練習とか?」

「ないけど。ダンスは明日するって」

「そっか。いや、水本せんせーがさ、うちのクラスの現国の終わりにちょっとオレんとこに寄ってきて、校庭で練習すんのかってわざわざコソッと聞くから、多かったらここでやるかもって答えたんだけど」

水本先生が?「やっぱ校庭でやらなきゃマズいのかな」

「そんな事ねえんじゃね?家の近いやつとか、そこの小学の校庭使わしてもらうって言ってたやつもいたし。まあいいよ。走ってみよ。せ~~の!」

と言ってオオガキ君が私の肩を掴み右足を出したのに、私も右から出ようとして最初に1歩でつまずく私たち。

「「そっか~~~」」と一緒に声を上げる。

「結んだ足から出そ!」オオガキ君が言って私たちはまた「せ~~の!」と声を合わせる。が、「ちょっと待って大島さん、大島さんもオレの肩…あ、肩だとバランス悪いか…オレの腰とか持てない?ヤだ?たぶんみんなどっか掴むよ危ないから」

「そっかごめん」

オオガキ君と私の間で変な風に曲げてた私の右手をオオガキ君の腰に回す…

「ひゃっ」とオオガキ君が体を変な感じで曲げた。

「ちょっ…大島さん!そこは腹だから。もちょっと下」

「ごめん!」謝って少し手を下げる私。

あ…なんか私の腰よりだいぶ硬いかも。ヒロちゃんだったらもっと筋肉質だからもっと硬いのかな…タダもあの時胸板が結構…

 

 花火大会で抱きしめられた時の、浴衣ごしのタダの胸の感触を思い出して、うわっ、と思って首を振ったら、オオガキ君がビクッとしてちょっと身を引いている。

「あ、ごめん。男子の腰掴むのなんて初めてで」

「そっか。大島さんは彼氏いなかったの?中学とかで」

「うん」ずっとヒロちゃん一筋だったから!

「オレも!彼女いなかった~~。お揃いだね!」

「…それ本当?オオガキ君てモテてたって言ってたよ。私の友達にオオガキ君と同中の子いる」

「そうなん?誰?」

「ササキユマちゃん」

「ササキね!そっかササキと仲良いのか。良いヤツだよなサバサバしてて。…オレ、モテてたのかな…好きだって何回か女子から言われたけど付き合った事はなかったよ」

「それモテてるよ。好きだって言われたんでしょ」

「でも呼び出された事とかないよ。普通に話してて『好き』って言ってくれたりしたから好きか嫌いかの好きかと思った。小学からそんな感じよくあったし」

「それ、小学からモテてたんだよ」

「そうか?え、オレ、モテてたのか?女子、結構軽いノリだったけどな」

…こういう人が天然て言うのかな。

「まあいいや」、とオオガキ君は言った。「じゃあ始めよ?掛け声入れよう」

「わかった」

「せ~~~の!1、2、1、2、1…」

あ、ダメだモタつく。「ごめん」と言うと、オオガキ君が優しく笑ってくれた。

「ごめんオレこそ。最初から速くしたわ、ゆっくり行こ!」


 オオガキ君、良いだな。接し安くしてくれているから緊張しなくてすむ。

 先週ペアが確定してオオガキ君が私の所へ来てくれた時、タダは私が、オオガキ君と一緒に走るのを『すげえイヤ』だと言った。

 ユマちゃんが言わした感もあるけど、それでもはっきりそう言ったのだ。

 なのに。

 やっぱりその後も超普通。その朝貸してたシャーペンも帰り、部活に行く前に返しに来たが、私が掃除当番に行かなきゃいけないというと、じゃあカバンに突っ込んどくわ、って言って、帰ってカバンの中から出てきたのは私のじゃないシャーペンだった。

 なにこれ?誰の?タダの?忘れたから貸してって言ったよね?誰か別の人からも借りてて返すのとり違えたのかな?なんで2本借りる?


 ラインで「私が貸したのと違うシャーペン入ってたけど」って送ったら「?」って返ってきた。?ってなんだ。「?て何」って送ろうと思ったが、?に?て何てそれこそ何?って感じかなって思って止めて、それで土、日で週明けに聞こうかと思っていたのに私が家に忘れるという始末。それで休み時間もなんとなく話すタイミングがなくて、結局今日もまだ謎のシャーペンは私の家の机の上だ。

 私がタダに貸したシャーペンは今どこにあるんだろう?




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