体育祭も楽しまなきゃね(校長談) 5
オオガキ君が「大島ユズルちゃんは何部?」と聞いてくれる。
なぜフルネーム?と思いながら「美術部」と答える。
「へ~~すげぇ。絵ぇうまいの?」
「…うまくはないよ描くのは好きだけど…」
「そっかそっか。で、どうする?」とオオガキ君が聞く。
どうする?
「練習どうする?」とオオガキ君。
練習ね!そうだよ練習しなきゃ!
…練習したところで、この陸上部のすごい人にかける迷惑ちょっとでも減るのかな。
「…なんかごめん」とまた言ってしまう。
「はいはいわかったわかった練習しよ」オオガキ君は面白そうに笑いながら言ってくれた。
「ありがと」
「…あ、あれ?ねえ大島ユズルちゃんてあれじゃないの、あの、女子が夏休み入った頃騒いでた…女子に人気ある…イズミ君?…の彼女だって言われたけど違った人!」
指を指すな、と心の中で注意する。嫌な認識だなそれ。
「でしょ?」と明るく悪気ない感じで聞くオオガキ君になんとも答えられない私だ。
「え~~~っとぉ?イズミ君てヤツどこに…」と私の頭を避けてうちのクラスの中を除くオオガキ君。「あ、イケメン発見。やっぱイケメンだねぇイズミ君。…てか、こっちガン見してるけどそのイズミ君」
え、うそ、と思って振り向いたらタダと目が合ったので、パッとオオガキ君の方へ顔を戻す。
そしてその私の前に立つオオガキ君の後ろから、のそっと現れたのは水本先生だ。
「お?」と水本先生。「お~~~大島、オオガキが迎えに来てくれたのか。そっかそっか良かったじゃん、陸上部とペアなんて」
だから申し訳ないなって思ってるとこなんだよ先生。と、ちょっと睨んだら水本先生は笑いながら言った。
「すげえ速く走れんじゃねえ?大島史上最速!みたいな、な?」
うるさいわ、と思う。
その水本先生が教室に入りながらタダを呼んだ。
「タダ~~。迎えに来たぞ~~~。先生がペアだぞ~~」
ドヨドヨっと教室に残っていた子たちのざわめき。
タダ、水本先生がペアか!
「こらタダ~~」と水本先生。「今小さく舌打ちしたろ。聞こえなかったけど、口の形でわかったぞ~~。がんばろう!お~~~!」
片手を握りこぶしで挙げて見せる先生だ。
女子が先生の周りに集まった。「ヤダ先生代わって~~~」とハタナカさんがさっそく言っている。
「だめだよ」と水本先生。「タダはオレのペアなの。オレと走るの。ハタナカだってちゃんとペアいるだろ」
きゃ~~~、と周りを囲む女子のみなさんの軽い悲鳴。水本先生もまあまあ人気あるもんね。私もちょっと好きかも。さっきはムカついたけど。
「なんかすごいね。うちのクラスの女子もよくイズミ君の話してるけど」と少し驚いているオオガキ君だ。「水本もすごいな。…で?どうする?練習したい?」
「したいです。でもオオガキ君は練習しなくてもいいかもしれないから、なんか申し訳ない感じする」
「だいじょぶだいじょぶ。オレね、走るの好きだから。速く走んのもゆっくり走んのも好き。走んないのも好きだけど」
そう言って笑うので私もつられてヘラっと笑ってしまう。でもそれホントかな。初めて喋るから気を使ってくれてんだよね。それにしてもオオガキ君、コミュ力高い。初めて喋るのにオオガキ君が気安いおかげで私もソワソワしたりせずに普通に喋れてる。感じの良い子で良かったけど迷惑かけないようにしなきゃ…
「お~~オオガキ~~」と教室から出て水本先生がまた話しかけて来た。「大島の事よろしくな」
「…あ~~はい」と答えるオオガキ君。
「大島は何気に気にしいだからな。オオガキの大きな包容力で楽しんで走るように頼むわ」
私は慌てて先生に言った。「先生!そんな事頼まれてもオオガキ君困るから止めて下さい」
「そんな事ねえよな?オオガキ」と水本先生。
「そうですね」とオオガキ君。「オレの大きな愛で包み込みます」
ハハハハハ、と笑う水本先生とオオガキ君だが、私はオオガキ君がいきなり『愛』とか言い出したので、そんなふざけた事も言えるんだなって思いながら一応動揺してしまう。そんな風な冗談普段言われないから。
「じゃあ来週の水曜日の放課後練習しよっか」と水本先生が行ってしまうとオオガキ君が言った。「部活ないから」
「うん。ありがと」
「よし。じゃあそういう事で」
「あ、でも私!」と帰りかけるオオガキ君を呼び止めてしまった。「練習でもすごいどんくさいかもごめん」
ハハハ、と笑ったオオガキ君は片手を私の方へ突き出してOKの印に親指を上に突き出してくれた。
「だいじょぶだって。そんなに心配してるとほんとに転ぶよ?」
そして軽く手を挙げ自分のクラスへ戻って行くオオガキ君。
一緒に弁当を食べていたユマちゃんの所へ戻ると「お~~~」と言われる。
「オオガキじゃん。相当足速いよユズちゃんどうすんの?」
「そうだよ、どうしよ…まさかの陸上部」
「練習すんの?」
「練習しようって言ってくれた。私、どんくさいからごめんて言ったら、大丈夫だって言ってくれたけど不安」
「へ~~~。まあノリが軽い感じだからね。オオガキ、同中なんだよ。結構女子人気あったよ。今のタダに比べたらアレだけど…」
言いながらユマちゃんが『あ、』て顔をして私の後ろを見たので、振り返るとそこにタダが。
ドキっとしてしまう。
ドキっとしてしまうのがイヤだ。
「タダって水本先生とだね!面白そう」とユマちゃん。「二人で走るの女子にすごい騒がれそうだね、もう騒がれてたけどさ」
「…」
それには答えないタダが「なあ」と私に言った。
またドキッとしてしまう。ドキっとするな私、いちいち。
「…なに?」
私はタダの事を意識しないように普通のトーンで答える。答えられてるはずだと思う。タダの顔をじっと見返すとタダもじっと私を見るからちょっとだけそらしちゃったけど。
「あいつ、すげえ速いやつじゃん陸上部のオオガキって」とタダ。
「知ってんの?」
「部活の時にも見えたりするから」
「やっぱ速いよね…。…不安だよ」と私は正直に答える。「すごい迷惑かけそう。優しそうだったけど、実際一緒に走ったら私のどんくささにイライラするかもどうしよ」
「…」そう言った私を無言でじっと見つめるタダだ。
…止めて欲しいそれ。
タダが聞く。「大島はオオガキ知ってたの?さっき長かったじゃん」
長い?「…なにが?」
「話がだよ」ちょっとイラついた感じで言うタダだ。「すげえいろいろ話してるっぽかったけど」
「…今日はじめて喋ったけど。せっかく速い子なのにどうしよ」
「それはさっき聞いた」
なに?感じ悪いな今日のタダ。
「でも練習してくれるって言ってたけど…」
「へ~~~~」と言ってタダがまた私を見つめる。
いやほんとにそれ止めて欲しいから!
「じゃあオレが練習してやろうか?」
「「え?」」ユマちゃんまで私と声を合わせて聞き返した。