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体育祭も楽しまなきゃね(校長談) 4



 教室に戻って、さらに5、6時限目は他の種目決めをする。さっきくじを引いた二人三脚と綱引きは全員参加で、あと最低一つは何かの競技に出るか、もしくは当日は体育委員だけでは足りないので、道具を運んだりの補佐をする体育祭委員にならなければならない。それは競技に出なくてすむという利点はあるけれど、拘束時間が長いのだ。

 どうしよ…

 


 タダはリレーに選ばれた。速いもんねぇ。…まあヒロちゃんには勝てないけど。

 どうしよどうしよ、と思う間に自推や他薦でどんどん決まって行くので、私は慌てて一番責任が薄そうで、でも頑張ってる感も出せそうな綱引きに出る事にした。


 

 そして翌日だ。青字のくじを引いた子たちが朝のショートホームルームの前に呼び出され、それぞれ自分のペアの赤字のくじをもらって教室に帰って来た。みんな真面目だ。校長の言いつけを守って、うちのクラスの青字を引いた子たちは自分の相手が誰なのか一切他言しない。そして休み時間になったら自分のペアを尋ねるために無言で教室を出て行き始めた。

 なんかもう、ちょっとした儀式の一端みたな感じすらする。

 1時間目と2時間目の終わりの休みは10分ずつしかないけれど、その10分間で廊下の所から呼ばれて次々と挨拶をし合っている。もちろんクラスの中でペアになった子たちもいる。男女でペアになった子たちはやっぱりちょっと照れくさそうだ。そう思うとちょっと知ってる人より、全然知らない人の方がやりやすいかもしれない…


 私のペアの子はまだ来ない。なんか結構ドキドキしてきた。

 ユマちゃんは1組の男子がペアだった。同中の子らしい。そしてハタナカさんも呼ばれた。

 ハタナカさんのペアの子は隣のクラスのあまり背の高くない男子だ。男子男子していない可愛い感じの子。…どうするんだろう…とクラス中がこっそりハタナカさんの動向を伺っている。あんなにタダとペアになりたがってたもんね…

 『いや!絶対イズミ君じゃなきゃイヤ。あんたなんか別な子と組みなさいよ』とかみんなの前で言い出されたらどうするんだろう相手の子。ちょっと気弱そうなのに。



 じい~~~っと相手の男子を見つめているハタナカさんをそお~~~っと伺う私たち。

 ハタナカさんがこくん、とうなずいて、相手の子に何か言っている。何言ってるんだろ…。相手の男子も何か言って、またハタナカさんも何か言って、そしてペアの男子は可愛くニコッと笑ってハタナカさんに手を振って帰っていった。

 後から近くにいたユマちゃんが教えてくれたけれど、『うん。来てくれてありがと。よろしくね。練習しようね』って言っていたらしい。

 なんだ。

 ハタナカさんの事悪く思い過ぎだったな私。タダの事が好きでやけに絡むところと、その余韻で私に冷たい目を向けてくるせいで、ハタナカさんの人格を否定し過ぎてた。ごめんごめんハタナカさん。



 そしてタダのところにもまだ誰も来ていないみたいなので、女子のみなさんは可愛めの女子が来る度、ちょっとチラ見が強い。でもガン見はしないぞ、みたいな、みなさん落ち着かない感じだ。休み時間中タダの動向を気にしている感じがクラス中に渦巻いている。タダがちょっと席を立つ度、どこ行くの!?って感じで女子のみなさんがウソみたいにタダの方に頭を動かすんだけど…

 でもそれを見てるって事は私も気にしてるって…事だよね?


 「ねえねえイズミ君、赤か青かだけでも教えて」我慢できなくなったらしいハタナカさんがまた聞いている。「イズミ君が他の女の子を迎えに行くかもって考えただけで私、すっごいモヤモヤする~~~~…え?もしかして!うちのクラス?もしかのもしかでユズりんとか!?」

 いきなり私の名前が出たのでビクッとした。

 違うよね?っていう目でタダを見てしまうと、タダも私を見返して来たので目を反らしてしまう。

「ヤダ!まじでユズりん!?」

 騒ぐハタナカさんをじいっと冷めた目で見たタダがボソッと言った。「秘密」

 いやぁ~~~、とか、きゃ~~~、とか抑えた声でため息を漏らす女子のみなさん。


 


 私の相手もなかなか来ないな休み時間忙しいのかな、と思いながらの昼休み。

 うちの『やまぶき高校』は3時限目の後に昼食と昼休みがある。中学の時は4時限目の後に給食だったからお腹が空いて4時限目はいつもイライラしていたので、この学校の時間割は相当嬉しい。

 みんなが弁当を食べ終わる頃、教室の前後の入口からペアの子に呼ばれるクラスメートたち。このまま私だけ来ないなんて事ないよね?

 ちょっとソワソワし始めた頃、「大島ユズルちゃ~~~ん!」と前の入口から大きな声で呼ばれてドキッとする。

 来た!と思って見ると…この人確か…



 「大島ユズルちゃ~~~ん!」ともう一度呼ばれた。

 わ~~~…と思って、もたもたしてたら「大島…」ともう一度呼ばれそうになり、慌ててガタっと立ち上がった私をパッと見たその男子はニッコリ笑って指差して来た。あんたが大島か?みたいな感じで。

 小走りでその子の元へ向かう。

「はい」と入口の、その子の前まで行ってやっと返事をすると、私より少し背の高いその子はニッコリと笑った。

「オレがペアだよ。よろしくね」



 わ~~と思う。…この人…上の名前しかわからないけど陸上部の人だ!オオガキ君。走ってるのを見た事あるし、5月にあった県大会の選考会で校内記録出したって朝礼で表彰されてた…

 

 オオガキ君は、「え~~とね、オレ、5組のオオガキ」と自己紹介した。

 なぜよりによって陸上部に当たる!しかも記録まで出した人…足手まとい感が増すじゃん!

 「なんかさ、」とオオガキ君はちょっとはにかみながら言った。「こうやって女子迎えに行くの恥ずかしい~~って思ってたら昼休みになっちゃったんだけど、もっと早く来た方が良かった?」

ううん、と言う気持ちで首をそっと振ってみせる。

「そう?」

「オオガキ君ごめん!」

「え!?」

私にいきなり謝られたオオガキ君は驚いた顔をしている。

「え?なに?なんの『ごめん』?」焦って聞くオオガキ君。「オレの事、『パス』みたいな?チェンジしたい、みたいな?」

 「違う違う」と慌てて言った。「オオガキ君陸上部だよね?せっかく走るの速いのに、なんかごめん!私、足、あんま速くないんだよどうしよ」

ハハハ、とオオガキ君は笑った。「そのごめんか~~~、もうびっくりした。オレの事がイヤなんかと思ったもう~~。校長があれ程嫌がんなつってたのにこいつコラ~~~って思ったじゃん。てか、オレが陸上部なの知ってんの?」

「うん、見た事あったし、前朝礼で記録の事で表彰されてたよね」

「よく覚えてんね!嬉しいわ!」

本当に嬉しそうに笑うオオガキ君だ。

 良かったオオガキ君、優しそうだし爽やか。







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