体育祭も楽しまなきゃね(校長談) 3
私たちのザワザワ感やうずまく不安、期待、高校になったらもう体育祭なんかなくてもいいのに感をものともせず、校長は続ける。
「今あからさまに嫌な顔をした子や、不安そうな顔をした子たちがいましたけど…」
言われて少し周りを気にする私たち。
「くれぐれも言っておきますけど、男女でペアになった場合。相手によってあからさまに喜んだり、露骨に嫌がったりは絶対にしちゃダメです。まあ女子女子ペアも男子男子ペアもそうですけど。特に男女ペアの場合ね。それからもし、自分の好きな子とペアになっても平常心で。下手に意識して浮足立ったり、運命だとかバカみたいに思いこんだりはしないように。相手にその気がない場合は気持ち悪がられますからね。足のひもも普通に結ぶ。肩も邪念なく普通に組む。いいですか?」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ…
ザワザワ言ってるだけで返事をしない私たちに校長が念押しをする。
「それでペアが決まった後なんですが、ラインとか電話とか教え合ったりは無しです。放課後も絶対にラインとか電話で連絡をしちゃいけません。どちらかが相手の教室に尋ねて行く事。もしくは靴箱とか、どこか二人で決めたところにメモを残すとか、誰かに伝言を頼むとかね」
ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ…
「どうですか?楽しそうでしょう?いや、そっちの方が断然楽しいに決まってますから」
男女混合の二人三脚か…同クラの女子でも普段あんまり喋らない子と二人三脚とかしたら、うまくやれるんだろうかって心配するのに、男子と、しかも他クラの男子と当たったらどうなんだろ…他クラの男子なんて同中とか委員会が一緒の子とかしか話した事はないのに足をつないで一緒に走るとか無理。
まず緊張するし、私は運動得意じゃない方だからモタモタして鬱陶しがられそう…男子の歩幅と早さについていけなくて転んだりしたらどうしようもない。あからさまに嫌な顔をされたらどうしよう。校長先生は誰と当たっても嫌な顔とかしないでって言ってたけど、そんなの嫌な顔はしなくても態度に出ると思うし、逆に自分のダメさを全ぶ受け入れてくれたりしたら、申し訳なくて余計緊張してダメさが増すんじゃないかな。
でも罰ゲームの原稿用紙5枚は多いよね。しかもそれ、ペアで各5枚書くって事でしょ?その上もう1回文化祭の時にやり直しをさせられるって…
せめて同じクラス、できたら女の子がいいな。それを引き当てるのって確率で言うとどれくらいなんだろう。…計算できないや。
…なのになんでみんな全力で嫌がらないのかな…不安じゃないわけ?
万が一でこっそり好きだった子と当たったらとか、今のところ気になってはいないけど、感じの良い子と当たってちょっと仲良くなりたいとか?でも知らない人やもしかしたら苦手だと思ってる人と当たる確率の方が高いと思うのに。
あ~~私もなぁ…ヒロちゃんと同じ学校で、ヒロちゃんと二人三脚出来たらなぁ…
『ほらユズ、どんくせえな。もっとしっかり走れや』とかヒロちゃんは言うんだけど、でも私に歩幅合わしてくれて、しっかり肩も組んでくれて、『仕方ねえな。大丈夫だから。オレが一緒だから』って。『ほら最後まで頑張れ、1、2、1、2、』って。『ちっちゃい時からほんとはユズがずっと好きだったからな』って。
…妄想しててむなしいな。もう計4回振られてるのに。はぁぁぁぁぁ~~…
…あれ?
あれっっ!今ため息ついたすきに私の隣にいたはずの妄想のヒロちゃんがタダに変わった!
ぶんぶんと首を振って考え直す。ヒロちゃんの高校でも二人三脚とかダンスとか、男女でするのかな。それイヤだな。ヒロちゃんも、ヒロちゃんが好きなユキちゃんと一緒にって思ってんだろうな。借り物競走で『好きな人』とか出てヒロちゃんがユキちゃんを連れて走ったりしたら…
にやにやしながら走るんだろうなヒロちゃん。…くそ。うらやましい。
「それで」と最後に校長が言った。「これかくじ引きますけど、自分が引いた番号は誰にも教えちゃダメですよ?交換も絶対ダメ。こういうとこ、一人でもルール違反したら面白くなくなります。面白そうな事を面白くなくしてしまう人は私は嫌いです。青字のくじを引いた人は相手が誰か誰にも言わずに訪ねて行ってください。赤字のくじの人は青字の人が訪ねて来るのをソワソワしながら待ちましょう」
まず各クラスの委員長がじゃんけんで順番を決め、その順に各クラスごと各担任に促され、出口の方へ進み順番にくじを引いていく。
「はいはいはいはい、さっさと引いて」とうちのクラスの担任の水本先生が言う。「これ、昨日残業で作らされたからね。自分の思うような組み合わせになれなくても絶対ゴネたりズルすんなよ。校長が言った通りのルールを守ってめんどくせえから。よしじゃあオレがまず引くから」
え?とクラスの子たちがざわつく。「先生も?」
「先生もだよ。このクラスかどうかわかんないけど、先生とペアになったヤツ!露骨に嫌がんなよ~~~がんばろ~~~!お~~~~~!」
言いながら片手を拳で上に挙げて見せて、事務的な盛り上がり感を一瞬だけ出すと水本先生が先にくじを引き、私たちもワラワラと次々にくじを引く。引いた人は壁際へ間隔を持って移動させられ、名前とクラスを書いて靴箱の上の段ボールに畳んだそのくじを投げ入れていくのだ。
私は赤字だった。自分から訪ねていくほうじゃなくてまだ良かったかも。
「イズミ君!イズミ君!ねえ何番?」
ハタナカさんが校長のおどしも水本先生の注意をものともせず、体育館を出た直後にタダに聞く。
困ったようなちょっと嫌な顔をするタダだが、それでもハタナカさんは追求する。
「だって知りたいもん~~~。私イズミ君とが良い~~~」
が、タダが何か言う前にすかさず水本先生がハタナカさんを注意した。
「ハタナカ~~~。ダメだっつったろ。…もう~~特定の男子にだけそんな事聞くな。それ聞いてた男子の中でハタナカのペアになったヤツいたらハタナカに声かけづらいじゃん。な?」
ぷ~~~、と膨れてみせるハタナカさんがちょっと可愛いけどでもだいぶん怖い。
ユマちゃんが私の横にピョン、と並んできて言った。「ちょっと不安だね~~」
「うん。不安!」力強く答える私。ものすごく速い男子とかとなったらどうしよ…」
「あ~~…。でもそういう時はユズちゃんに合わせてゆっくり走ってくれるかもよ?肩ちゃんと組んでくれてさ」
「そんなの申し訳ないよ」
「いやいや。それがいいんだって。足の速い男子もさ、逆にそういうのが嬉しいかもしんないじゃん」
それ、すごく可愛い子とかとだったらね。
「でもユマちゃん、」と私は言った。「ユマちゃんの彼氏のヒロト君とはほぼペアにはなれないでしょ?いいの?」
なんとユマちゃんの彼氏の名前も私の好きなヒロちゃんと同じ『裕人』なのだ。字まで一緒だ。
「あ~~~…なれたら奇跡っぽいよね!」
「ヒロト君がユマちゃんじゃない女の子の肩触ってもいいの?」
「う~~~ん…。まぁそれはイヤだけど…」へへっと笑ってユマちゃんが可愛くこそっと言った。「私もちょっと他の男子と肩組んで走りたい!ヒロトがヤキモチ焼いてくれるかも」
わ~~~~……ユマちゃんたら…リア充のくせにナメた事言いやがって。