体育祭は楽しまなきゃね(校長談) 2
校長の口からさらに、1年生全体をシャッフルした男女混合の二人三脚があると聞いてさらにざわめく体育館。
「もちろん他にも普通にリレーや借り物競走、綱引き、部活リレー、騎馬戦とかね…」と校長先生は列挙する。「ね?頑張りどころがたくさん。楽しみですね!」
1年全体をシャッフルした二人三脚?
同クラの子でも普段そんなに接点のない子とペアになったらちょっと戸惑うと思うのに、他クラの知らない子と、しかも相手は男子かもしれないのにその子の足と自分の足をひもかなんかでぎゅっと結んで、それで肩も組んで走るわけ?
体育館の中は一挙にザワザワが高まり、気になる二人三脚の説明を待つ私たちに、今度は「ちょっと話それるけど」と、校内での携帯電話禁止の必要性を強く説き出した校長だ。
「まずね、面白くないから」
ザワザワ…
「いつでも連絡がつくっていうのはね」と校長が自説を展開する。「まあ、すぐ連絡取れないと困る事もたくさんあるけど、みんなくっだらない、本当にしょうもない事ですぐ連絡取るでしょ?連絡ならまだわかるけど、なんか自分のちょっと心に浮かんだ事すぐ挙げるでしょ?学校内でまでそんな事する必要はないからね。全く!ないからね!ちょっとねえ、わかりやすいところで放課後のデートの約束とかを考えてみましょう」
ザワザワザワザワ…
「ラインでチラッとそんな約束するよりもね、好きな人がクラスまで来て『今日一緒に帰ろ』って言ってくれた方が嬉しくない?」
ザワザワザワザワ…
「でも急に委員会の集まりとかがあって、『ごめん、やっぱ今日無理っぽい』みたいなのもね、クラスまで行って相手の顔を見て、本当にごめん、て思いながら言うとね、『あ~~…ほんとにごめんて言ってくれてる』って思ったりね。そういうとこです。実際好きな人に会いに行くってそれだけでドキドキソワソワするし、嬉しいでしょう?来てもらう方も同じように嬉しいです」
ザワザワザワザワザワザワ…
「どんだけドキドキしながら言ってくれてるか分かるし、どんだけ悪いなって思って断るのか顔を見たらわかるでしょう?別に好きな相手じゃなくてもクラスが別れた中学からの友達とかね、昼休みとかちょっとした話をしに来てくれるのも嬉しいでしょう?…あれ?嬉しくない?」
いや、そりゃあ嬉しいと思うけど。実際今いちばん仲良くしてくれてる同じクラスのユマちゃんの所に、昼休みに彼氏がやって来るのもいつも羨ましいと思ってるし。私だってヒロちゃんが同じ学校に居て、用事がある時に私のクラスに来てくれたりしたらって考えただけでニヤニヤしてきそう…
…あれ?
あれっっ!!なになになになに…私なに!
どういうわけか今、花火大会で私の浴衣姿をスマホで写した時のタダの姿がチラついた…
ダメダメダメダメ…もうそういうのを思い出すのもなしだ。今日だってタダは朝、『はよ』ってテンション低く言って来たのと、シャーペン忘れたって言って、私が予備に持って来ていたのを借りて行く時も『悪い。帰りに返すわ』だけ。
いや別にいいんだけど。その度に私はいろいろ思い出してソワッ、ってするのに。
「この後の時間で出る競技を決めて行くんですが、」と校長先生は続ける。「とにかくみんなで楽しくやれるように、苦手なものに振り分けられてもなるだけ楽しんで。勝つためにものすごくムキになって頑張ったりしなくてもいいから、まず楽しんでください。あと、10月には文化祭もありますね。文化祭ももちろん楽しんで。楽しいからと言ってルールは守らないといけませんよ?去年も一昨年もこの時期、スマホの持ち込み許可もなく、そして校内での使用は厳禁にも関わらずこっそり使おうとする者がこの時期、特に1年生、ウソみたいに増えるからね。見つかったら私は本気でめちゃくちゃ厳罰に処しますから。他の校則なんて比べ物にならないくらいきっちり罰しますからね。破らないように気を付けてください。いいですか~~~」
今度は『はい』と口々に返事をした私たちに、校長は嬉しそうに、うんうん、とうなずいた。
その後、体育科の担当の先生から競技の説明と選手の決め方の大まかな説明があった。
それによると二人三脚以外の競技は、この後で教室に戻り、クラスの体育委員が中心になって各競技の選手を決めるのだけど、問題の二人三脚のペアは、今この場でくじで決めるらしい。出口の手前に段ボールが置いてあって、中に番号が書いてある紙が全1年生の人数分入っている。赤字と青字でそれぞれ同じ数字が書いてあった人がペアになるのだけれど、すぐに相手が判明するわけではなくて、引いたくじに自分のクラスと名前を書き、もう一つ用意された箱に入れて、赤字の番号のくじを、その同じ番号の青字のくじを引いた人に渡すのだ。それで青字の人が明日の休み時間適当に、赤字の人をクラスまで訪ねて行くという段取りらしい。
「ちょっとわくわくするでしょう」とまたマイクを握った校長。「相手は男子になるかもしれないし、女子になるかもしれないし。もしかしたら、ずっと好きだった相手に当たる事だってありますからね!」
そう言って体育館にいる全員を見回すが、校長がそんな発言しても良いんだろうか。
生徒たちがザワザワ囁き合いながら周りの人の反応を伺うのをものともせず、飄々とした感じのまま校長は続ける。
「もしも、あんまり自分の好みじゃないなって思うような人とペアになっても、絶対にそんな事を相手に感じさせないように。いいですか?これは社会勉強の一端です。もうそりゃ仕事だと思ってください。ペアになった人の事を尊重して一緒に頑張ってください。相手だってあなたの事を『え、なにコイツ』って思ってるかもしれませんからね?つねに相手の事を慮って」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ…
「自分の好きな子がね、違う子と走るのをイヤだな~~って思う事もあるでしょう」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ…
「まあそれを我慢して自分のペアと頑張るのも社会勉強です」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ…
「この競技は採点対象外なんですが、あからさまに仲良くない感じで走ったペア、やる気なくチンタラ走ったベア、肩を組んだにも関わらず全く息の合っていなかったペアは、なんでそういう風な結果になったのかを原稿用紙各5枚ずつ、反省文書かせますからね。そしてその上でもう1回、文化祭の時に走らせますからね」
ザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワザワ…
もうザワザワ感ハンパない。あちこちで「マジで!」とか「え~~~~」と言う声。