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体育祭も楽しまなきゃね(校長談)

 どういうつもりなんだろう…、と私はタダの後ろ姿を見ながら思う。

 


 タダというのは多田和泉。私が小学生低学年のころからずっと好きな男の子、ヒロちゃん、伊東裕人の親友だ。

 夏休み最後の日曜日、タダの弟の登園日参観に付き合わさせられた後、タダと、どうやら私を気に入ってくれたらしいタダの弟に誘われるがまま、タダのうちで昼ご飯を食べ終わった後、タダが私を好きだと言ったのだ。

 『好きだから大島の事』って。


 わ~~~っと焦って、挙動不審になって、用事があったとウソをついて慌てて逃げるように家に帰った私だった。そしてその後の残りの夏休みの補習の間、それから9月が始まっても、タダがどんな風に接してくるんだろうとソワソワしていた私に対してのタダの普通さ。

 告られた次の日の補習の朝、教室に入り、タダがもう来ているかどうか、タダがどんな風に私を見てくるんだろう、とか、皆の前で、特に女子の皆さんの前で、私に対していかにも告りましたよ?もう普通の同中のちょっと仲良いだけの感じじゃないんです、みたいな態度を取ったらどうしようとか、あれこれ考えた私が本当に恥ずかしい。

 全く。


 タダは極、極、ごく普通。ちょっと目が合って、「はよ」って言って来てそれだけだった。私だけが「…おはよ…」みたいな意識した感じになって肩すかし、みたいな感じ。

 そしてその後も普通。9月が始まっても本気の普通。私に話しかけて来る事があっても、元々タダがうちのクラスで話をする回数が多い女子は私だったし、それだって入学当初よりはだんだん増えて来たけど、別に慣れ慣れしい感じでもやたら私だけに親しみを込めてる感じでもなかったし、それがそのまま続いているのだ。

 もうそれは呆れるくらいの普通さ。

 まるでなんにもなかったかのように…


 …もしかしてあの、『好き』って言われたのって私の妄想!?

 …いや…確かに言われた絶対言われた…

 なのにこれだけ普通ってことは、やっぱり好きか嫌いかの好きっていう風にしか考えられないよね。

 そう言えばあの、花火大会で抱きしめられた後もそうだった。私だけが意識している感。なんなんだタダの普通さはもう。



 なに?なんなの?やっぱり、『好き』か『嫌い』かのどちらかで好きって事?

 登園参観に行った私に、タダの弟のカズミ君がタダの事を『嫌いか?』って聞いて来たのだ。『嫌いじゃない』って答えたら、『好きか嫌いかで言うと好きか?』って聞いてきて、私が2択ならそりゃあ…って思いながら『好き』って答えた…

 だってタダの事を嫌いなわけはない。私の大好きなヒロちゃんの親友なんだから。他の男子より話易いし。私の事をちょっとバカにしてんじゃないの?って思う事もあるけど…それでヒロちゃんに私が振られた時も笑っててムカついたけど、でもあの時変に同情されてたらもっと切なかっただろうし…

 まあ笑わなくてもいいじゃん!て思うけどね。

 それでその笑われた事も大きいから、私の事を好きだなんて言ってくれても今一つほんとなのかなって…

 タダの私を『好き』も、その『好きか嫌いか』の好き?

 じゃあソワソワしなきゃいいじゃんて話だよね。何意識してんだ私…



 なんで私だけ意識して、告った方のタダがなんともない感じなの?どういう心境なの?意味わかんない。

 やっぱからかってんのか?私がずっとヒロちゃんに振られてもまだ好きでいるから。

 ヒロちゃんに本気で好きなユキちゃんがいる今でもずっと好きな私をバカにしてんのか?コイツ、オレが好きだって言ったらどんな感じだろう、みたいな?それか、コイツ可哀そうなヤツだな。せめてオレが好きだって言ってやろうか、みたいな?あるいは自分がモテてるから、ちょっと好きだって言ってみたけど、私がここまで意識してるとは思ってないとかね。慣れてんのか、女の子に。簡単に好きとか言うな!

 

 …でも私は知ってるんだよね。小6の時にタダが転校して来た時からずっとヒロちゃんのそばにいるタダが、そんな、女の子の気持ちを弄ぶようなヤツじゃないって事。どうでもいいようなくだらない事をわざわざやらないヤツだって事も。

 …まぁ私の事バカにはしてんのかもしれないけど。


 だって。

 タダがあんまり普通だから。

 ラインだって来るけど本当に前と変わらない。用事のある時だけ。ヒロちゃんの事とか、小テストの範囲聞いてきたり…つい3日前も、提出しなきゃいけないプリントが破れたからコピーさせてってラインが来て、実際その後すぐにタダが自転車でうちまで来て、私は結構ドキドキして焦ってたのに、『悪い』って言ってプリント持って行って、ものの15分もしたらプリントを返しに来たから、コピーしてすぐに返しに来たのだ。『ありがと』って言ってさっさと帰って行ったし。



 悔しいよね。なんか良くわかんないけどタダが普通で私がソワソワしてるのが悔しい。

 それでもヒロちゃんも、ヒロちゃんのお姉さんのミスズさんも前、タダは前から私の事が好きなんだって言ってた…

 何を根拠言ってんだ。

 私もタダなんか気にしない。それに私が好きなのは今でもヒロちゃんだもん。

 

 …あ~~~…なのに。

 なのになんでやっぱりこんなにタダの事が気になるんだろ…

 いや、なるよそりゃ。抱きしめられた上に『好きだ』って言われたんだから。ソワソワして意識して当たり前だ。私のこのソワソワ感こそが普通なのだ。

 

 でも!だからこそ私も超普通にする。あの登園参観にタダと行った日に『好きだから』って言われた時よりも前の、そして花火大会で抱きしめられた時よりも前の、タダの事なんかなんにも意識しなかった頃の私でタダに対応するのだ。




 そして、そんな感じがずっと尾を引いている今日9月8日の4時限目は、体育館に移動して学年集会が行われ、22日に開かれる体育祭の説明を受ける事になっている。

 なぜだかわからないけど、説明は体育の担当の先生ではなく校長先生がするらしい。



 「はいはい、校長の桜井です」

1年生、6クラスの生徒の前で、いつもの飄々とした調子の校長先生の挨拶で集会が始まった。

 校長先生は白髪交じりの肩までのぼさぼさの髪をした、身長が私と同じくらい、165センチくらいの定年間近の男の先生で、その風貌はアインシュタインにちょっと似ている。


 「体育祭どうですか~~~?」と語りかける校長先生。「楽しみですか~~~?楽しみじゃないですか~~~?」

 ふん?という感じで1年生全体を見回す校長先生。きょとん、としている1年生たちに言う。

「あれ?先生の声聞こえてます?なぜ君らは返事をしない。楽しみですか~~~?楽しみじゃないですか~~~~?」

 ほら?みたいな感じで持っていたマイクをこっちに向けてもな。そんな風に言われても、ここで『楽しみ~~~!』とかさすがに大声で答えたりはしないよね。小学生じゃないんだから。


 「ふうん」と、残念な顔で1年全体を見渡した先生が言う。「冷めてるねぇ。嫌だなあ…。高校生になって、体育祭なんてただこなしていく一つの行事、みたいな感じ出してもねぇ。もっと行事1コ1コを楽しまないと。体育祭は楽しいですよ~~~。青春ですからね」

 ザワザワっとする体育館。いつも飄々とした校長先生が『青春』とか言い出したからだ。





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