ダンジョンを投げる
週一投稿だと言ったな?
アレは嘘だ。
〈何するんですか!〉
当然のようにサクシの手のひらの中で抗議するワボちゃん(黒い謎の球体)をノータイムで地面に叩きつけた上、執拗なストンピング。
〈ちょ!踏まないで!〉
勿論、声を無視して何度も踏みつけるサクシ。
〈ちょ!あ!あ!アァッ!〉
人を小馬鹿にするようなわざとらしい嬌声を上げるワボちゃんに、サクシはとことん冷め切った目を向けると、その黒い球体を蹴り飛ばした。
サクシは今だとばかりに蹴り飛ばした方向と逆方向へ走り出すが、気がつけば何故か右手にあの黒い球体を握っているのに気がつき、足を止める。
〈ちょっといい加減、私の話を聞いてくださいよ〉
心が折れたというか、ついにサクシは諦めた。
「えーもう何なんですか貴方」
〈それはどちらかと言うと、散々投げられ踏みつけられ蹴り飛ばされた私の方が言いたいせり――待って!待って!投げないで!〉
男子高校生の心の回復力を侮ってはいけない、折れようがもげようが案外すぐ回復する。
〈えーっとですね、ワタクシこの世界の声ワールドボイスと申します、お気軽にワボちゃんとでも呼んで頂けると大変嬉しく存じます〉
「それはさっき聞いた、つか魔王って何なの魔王って」
嗚呼、やっと会話が繋がった。
というワボちゃんの喜びの声が聞こえたが無視した。
「えーっと何?魔王?とかそういうのちょっと迷惑なんで、僕んち仏教徒なんで」
あからさまな嘘だった。
〈ちが!違います!私そういう新興宗教とか、そんなんじゃ無いですから!〉
ワボちゃん必死の抗議に冷めた目で返すサクシ。
〈貴方は目出度くこの世界初の魔王に選ばれたのです!〉
だからそれはさっき聞いたとサクシが思うと、ワボちゃんが賺さず畳みかけてくる。
ここで間を開ければせっかく繋がった会話が無に帰すとワボちゃんも必死だった。
〈ではまず魔王になられた特典をご紹介します〉
パパーン!とワボちゃんが自分でSEを口真似る。
〈第一の特典!なんとワタクシワールドボイスの加護を得られます!これは特定状況下以外においては完全無敵、なんと熱核攻撃にも耐えられます!あと魔王的な能力もオマケに付いてきます〉
熱核攻撃に晒される状況とはどんな状況だとサクシは思ったが黙っている事にした。
ここで話の腰を折れば流石にこの面倒が一生終わらないとサクシも悟っていたからである。
〈第二の特典!配下の魔物を自由に召還出来るようになります!ドラゴン、スライム、ゾンビにレイスなんでもござれです〉
餌代が大変そうだな。
サクシは既にまともに考えるのも面倒だった。
〈そしてそして第三の特典!迷宮、つまりはダンジョンを作る事によってそこを居城とできるのです!〉
ばばーん!どーん!パラパラパラ!
ワボちゃん迫真のSEが空しく通路に響き渡る。
「あ、全部キャンセルで」
〈はぁあ!?〉
ちょっとドスの効いたワボちゃんの声。
今のが素の声なのかなぁとサクシ思いながら言い直す。
「じゃあクーリングオフで」
〈いやいやいや!そういうのじゃないですから!訪問販売とかそういうのじゃ!〉
「え~~」
と心底嫌そうなサクシ。
〈何でですか!何でなんですか!一般的な思春期男子ならこんな非現実目の前にぶら下げられたらリビドーの赴くまま飛びつくもんでしょ!〉
思春期男子はそんなリビドーはもっとらん、と思いつつもここで引いたら面倒な事になると、サクシは冷たく言い放つ。
「興味無いんで、それじゃあ僕、塾があるんで」
と、黒い球体を地面に放り投げると踵を返して歩いて行く。
この先がどこに繋がっているかは分からなかったが、歩いてこれたのだから、歩いていればどこかに着くだろう。
〈無理ですよ〉
その今までとは違うトーンのワボちゃんの声にサクシは思わず足を止める。
さすがに慣れたのか極自然に右手に視線が落ちる。
〈ここは、私が作ったダンジョンです。入り口はあっても出口はありません〉
今までとは明らかに違う威厳さへ漂うワボちゃんの声にさすがのサクシも若干の恐怖を感じる。
〈ここから出たければ私の……ちょちょちょ、ちょっと待って!駄目!ひね!捻るのはマジちょっと!イタ!イタタタタ!〉
その姿、カメハメ波を使う孫悟空かジャジャン拳を使うゴンのようであった。
ありったけの力で両手の中に力を溜めるその姿は擬音を付けるならまさに、ゴゴゴゴ!
実際はワボちゃんの悲痛な叫び声だったが。
〈すんません!嘘です!出口あります!出口はありまーーす!だから捻るのは、これ以上、捻るのワハーーー〉
分かれば良いんだよ分かれば。
とサクシは若干乱れた息を整えながら再び歩き出す。
「出口はこっちで良いのか?」
〈あ、ハイ。大丈夫ですサー〉
殊勝な声でそう答えるワボちゃんは先程のような威厳さは欠片もなかった。
〈あーでも、本当に宜しいんですかね?〉
「何が?」
〈このままですと貴方様は爆発してしまわれますが〉
サクシの足が再び止まる。
「はぁ?」
〈あ、ハイ。だいたい貴方様を中心に半径200キロメートル程が跡形も無いっていうか灰になりますね。殺傷範囲だとそれの4倍ぐらいだと思って頂ければと〉
「爆発規模は訊いとらん、なんだその俺が爆発ってのは、何の不条理だ」
〈えっとですね、貴方様は今ですね魔王となりまして、そのエネルギー的な?物でパンパンでして。本来でしたら、それを使ってダンジョンを作り配下を召還する事で良い感じに調整するんですが、今回それを為さらないという事ですので、必然このまま行けば爆発という事になります思春期男子的に〉
思春期男子的爆発とは、と字面のおぞましさだけでサクシは恐怖に慄く。
「魔王になるのはさっき断っただろうが」
〈あーいえすいません。魔王となりましたのはですね祝福的なアレでして。呪いとかじゃないんで解けたりとか出来ないんですよねー〉
呪いより質が悪いじゃねぇか!
「解け」
〈いや、すいません、それやってないんですよ〉
再び全力捻りの態勢に移るサクシに慌ててワボちゃんが声を上げる。
〈いや!ホントマジで無理なんですって!嘘とかじゃ無くて!〉
その余りにも必死な声にサクシは態勢を解くと溜息を吐いた。
「じゃあどうすりゃ良いの?」
〈それはヤッパリ、ダンジョンを作るのが手っ取り早いかと〉
「やり方は?」
〈あ、それは私、というかこの玉をダンジョンを作るぞって感じで投げて頂ければ、パッと出来ますね、パッと〉
サクシは暫く考える、がやっぱり爆発は良くないと直ぐに結論づける。半径200キロとか間違いなく自分の両親や友人達も死ぬ。
それも思春期男子的爆発などという、言葉だけでもおぞましい爆発に巻き込まれて死ぬなんて、考えただけで無念だろう。
「しゃーない、やるか」
そう言って振りかぶるサクシの手の中で、ワボちゃんが〈あれ?あれ?これもしかして私の望むとおりに事が運んでます?〉と、戸惑いの声を上げていたが。
サクシはイラって来たので黙っている事にした。
〈すいません!投げる前にお名前を!〉
「サクシ、間賀サクシ」
ワボちゃんの声に応えて名乗る。
えぇいままよ!
サクシはダンジョンを作るのだ、という感じがどういう感じなのかは分からなかったが、とにかく自分はダンジョンを作るのだと思って投げる事にした。
黒い球体が長い長い直線の通路を飛ぶ。
天井から浴びる白光にその表面をテラテラと反射させながら。
〈世界の広がり!人の憧憬!寛容と非寛容の狭間にて!〉
ワボちゃんが高らかに声を上げる。
〈なざなれば!なざなれば!人の楔!ここにて有りて!魔王サクシの大迷宮!迷子共の大灯台!御笑覧あれ!照覧あれ!此処は誰ぞの家なのか!魔王サクシの大居城!三千世界全ての迷子共が帰る場所!宇と宙の起点にて、魔王サクシ様に拍手喝采を!〉
ごっそりと体から何かが抜け落ちる感覚に目眩を起こしながらサクシはその声を聞いた。
さっぱり意味は分からなかったが、その声にある奇妙な誇らしさに、聞いていてむず痒くなる。
まるで幼女の自慢話を聞いている時のようだ。
それにしても、魔王サクシ様とは、様付けされるにはちょっとばかし若造すぎんだろ俺。
サクシは我慢できずにその場に膝をついた。
〈ちょーーーッ!これ私格好良すぎない!?何故か酷い目にあったけど最終的には私の思い通りとか私素敵ーーーーーーぷぎゃ!〉
カン!という音と共にワボちゃんの締まらない悲鳴が木霊した。
だからと言って次も三日後更新とは限らない。
この小説は意図的な誤用、誤字。
そして意図しない誤用と誤字で出来ています。
感想とかポイントとか貰えると宇宙の片隅でオッサンが身悶えします。