黒いの拾いました
2話連続、というか勢いでここまで書いただけなんですけどね。
サクシは迷っていた。
友人達と映画を見に梅田まで出てきたは良い物の、なんだかんだあって迷ってしまった。
方向的に東梅田駅あたりだとは思うのだけど、いかんせんまったく分からない。
梅田の地下街を歩いていると、よくこんな場所が有ったのかと驚く事が良くあるが。
さすがにこんな場所は始めてただった。
何せ周りに何もない。
店も無ければ案内看板も無く、ましてや人もいない。
本当に何も無いのだ。
あるのは延々と続く、白い照明に照らされた長い道のみ。
「流石に地上に出ないと駄目か」
心細さについ独り言が出てしまう。
地上へと上がる階段を探して暫く歩くと、それは道の真ん中に忽然と現れた。
本当に突然だった。
見落とそうはずが無い見渡しの良い直線通路でそれは、さっきからそこに有ったと言わんばかりに、当然のように落ちていた。
余りにも当然のように落ちていたので、サクシは自分がずっと見落としていたと思い込みかけた程だ。
黒くテラテラと光を反射する球体だった。
固そう、というのがサクシの第一印象で、思わず拾わなければという衝動に駆られる。
男子高校生的な無思慮と蛮勇に拠ってサクシはその球体を拾い上げた。
第一印象を裏付けるようにソレは固かったが、不思議な事にどう見ても球体であるのに、所々に直線的な感触があり、どうみても角はないのに指先が角を感じた。
そして固いかと思ったら突然に柔らかく感じたりと、実に意味不明な物だった。
なんだこれ?
と思いつつも、自分はこの球体をどうするべきなのか?いや普通に考えてポリボックス(交番の事)に届けるべきなんだが拾った場所を説明できるだろうか、等とサクシが考えているとその声は突然降りかかってきた。
そう降りかかってきた、当のサクシにはそうとしか感じられなかった。
〈おめでとうございます〉
その声は言った。
〈おめでとうございます〉
その声は女の声でもう一度言った。
〈大変おめでとうございます〉
うるせぇ!
サクシは衝動的に球体を地面に投げつけた。
〈酷い!こんなにも精一杯祝福しているのに〉
その声にサクシは、やっぱりアレがなんかアレなのかと、関西人らしいファジーさで自分の行動の正しさを評価した。
〈私の名前はワールドボイス、ワボちゃんと呼んでください〉
その声、ワボちゃんは相変わらず声を振りかけながらサクシに平然と挨拶してきた。
サクシとしては鬱陶しい事この上ない。
〈あ、すいません。じゃぁこれでどうです〉
とワボちゃんがサラっとサクシの内心を読むと先ほど投げつけた球体から声が出てくるようになった。
だいぶマシと思ったサクシが驚きで固まる。
気がつけば投げつけたはずの球体がサクシの手の中に戻っていたからだ。
〈あーあータイム!タイム!待って待って!投げないで!〉
ノーウェイトでもう一度投げ捨てようとするサクシにワボちゃんが必死のタイム。
それに対しサクシ、された方は暫く夢に見そうな壮絶な舌打ち。
「何なんですか?貴方」
そしてまさかの冷たい丁寧語である。
関西人が冷たい丁寧語を使う段階とは、まさにマジギレ寸前であり、何なんですか?と質問しながらも実質お前とは話す事なんて無いとほぼ同義である。
がしかしそこは流石のワールドボイスである。
単に空気が読めなかっただけであるが、サクシからの真っ当な(ワボちゃん視点)反応が初めて返ってきた事に有頂天になったワボちゃんは声を高らかにサクシに告げた。
〈おめでとう御座います!貴方はこの世界初の魔王となりました!〉
野球部がいたら部活に入らないかと誘わずにはいられない見事な投球フォームだった。
〈あーあーあーあーあー〉
サクシの全力投球によって遠ざかっていくワボちゃんの悲しげな悲鳴が通路に木霊した。
一週間に一度、更新予定。
ノンビリやります。