突然魔法少女? 98
「あのー……」
春子達と入れ替わりにドアから顔を出したのは西とレベッカだった。誠達はその顔を見てそれぞれ時計に目をやった。
「ああ、もう昼か」
十二時を少し回った腕時計の針を確かめながらげっぷをする嵯峨。乾いた笑いを浮かべながら誠はおはぎに手を伸ばす。
「ああ、シンプソン中尉!見ての通りなんで昼の買出しはいいですよ」
カウラが苦笑いを浮かべながら答える。西とレベッカはロナルドのデスクに置かれた重箱を目にしてそのまま入ってきた。昼の買出しは誠が隊に配属になったころから各部の持ち回りで行われるようになっていた。以前は隣の菱川重工の食堂を利用できたそうなのだが、要が暴れ、シャムがわめき、嵯峨がぐだぐだと味に文句をつけたため出入り禁止を食らっていた。仕方なく昼食は菱川重工の生協で弁当を買うというのが普通のことになっていた。
「僕好きなんですよ、おはぎって」
そう言いながらすぐにおはぎに手を伸ばして食べ始める西。レベッカもすでに二つもおはぎを手にして食べ始めている。
「ああ、神前さん何を見ているんですか?」
西は不思議そうに誠の端末が黒く染まっているのに目をつける。
「あれだよ、アイシャさんの気まぐれ」
「ああ、映画撮るんでしたっけ?でもまあ吉田さんも大変ですよね」
そう言いながら今度は西とレベッカが春子が居た場所に陣取る。アイシャが二人を出さなかった理由がシャムが書き上げた今度のコミケ向けの少年を襲う女教師の出てくる18禁漫画が原因だとは知ってはいるが口に出せずに愛想笑いを浮かべる誠。
再び画面に目を戻すと、そこには鎖に縛られた要の姿があった。誠とカウラは目を見合わせた。間違いなく楓達が動き出す。
『うわ!ふっ!』
鞭打たれる要の声。誠が目を向ければ予想通り楓と渡辺が立ち上がっている。恍惚とした目で鞭打たれる要を見つめる二人。そこに割って入ろうとするレベッカだがすぐに楓が鋭い視線でにらみつける。
「シンプソン中尉!君達は買出しの任務があるんだろ?」
そう言って西とレベッカを追い散らす楓。
「すみません。楓さん達はお昼はどうします?」
頭を下げながらおずおずと楓に尋ねるレベッカ。
「ああ、あっさりとぶっかけうどんがいいな」
「私はミックスサンドで。中身は任せる」
力強くそう言うとそのまま画面で拷問を受ける要の姿を目に焼き付ける楓と渡辺。
「よく食べますね」
誠が思わずそう言うと楓と渡辺に殺気を込めた視線を投げられて言葉を失う。
『よくもまあ恥ずかしげも無く生きて帰ってこられたものだな!』
サディストと言われる明華が要に鞭を振り下ろしている。
「これは……ちょっとやりすぎじゃあ……」
誠は苦笑いを浮かべるが楓達の反応はまるで違っていた。
「素敵……」
「私も……要お姉さま……」
ほんのりと頬を染めて楓が今にも身悶えそうな雰囲気で画面を見ている姿に誠とカウラは頭を抱えた。
「じゃあ、失礼します!」
引き時を悟った西とレベッカはそのまま部屋を出て行った。
「賢明な判断だな」
西とレベッカが消えたのを見てそう言うとカウラは再びおはぎに手を伸ばした。