突然魔法少女? 95
「要さんはお祭り好きですからねえ」
そう言って微笑む春子。だが、誠は狂気をたたえたタレ目と唇を舐める要の姿が武器を取ったときの近づきがたい要の姿を髣髴とさせて背筋に寒いものが走るのを感じていた。
『貴様達などメイリーン様の手を煩わせるまでも無い!行くぞ』
そう言って鞭を掲げて飛び降りる要。シャムと小夏がその鞭に弾き飛ばされる。
『シャム!』
何とか鞭をかわしたグリンがバリアのようなものを展開する。その中で足に怪我を負いながら立ち上がろうとするシャム。
『結界……愚かだな!その程度の魔力でこのイッサー大尉の鞭を防ぎきれると思ったのか!』
そう言って鞭を振り下ろすイッサー大尉こと要。
「こいつ実は好きなんだな。こういうの」
おはぎを口に運ぶカウラ。誠は画面の前でうっとりと要に見とれている楓と渡辺に苦笑いを浮かべながら茶を啜る。
「本当に良くお似合いで……ああ……」
楓の脳内がどうなっているのか、それを想像して寒い気持ちになりながら誠は再び画面に目をやる。
『シャム、小夏!願って!』
絶え間なく振り下ろされるイッサー大尉の鞭を受けながらグリンは必死になって叫ぶ。
『何を願うのよ!シャム。逃げましょうよ!』
小夏がそう言ってよろよろと立って、鞭を振るうイッサー大尉をにらみつけているシャムの手をとる。
『逃げないよ、私は!』
そう言うと手を天にかざす。彼女の手が輝き魔法の杖が現れる。高らかなファンファーレと共にシャムの体が光りだす。
『森の精霊、生き物の息吹。私に……力を!』
その叫び声と共にシャムの全身が光り始める。そのまま来ていたTシャツが消え去り、素肌を晒したシャムが画面の中でくるくると回る。
「あのさあ、神前。なんでこういう時ってくるくる回るの?」
嵯峨が誠の耳元で囁く。驚いて飛びのいた誠は珍しく純粋に疑問を持っている顔をしている嵯峨を見つめる。
「そのー、まあお約束と言うか、視聴者サービスと言うか……」
「なるほどねえ」
そう言って嵯峨は口の中の餡の甘みを消そうと茶を啜ってそのままぐちゅぐちゅと口をすすぐ。
「父上、そう言う下品なことは止めてください!」
画面に張り付いていた楓も父親の行動に気づいて振り返る。
「すいません。根が下品なもので」
謝る嵯峨。彼を見て微笑む春子。画面の中では要の鞭に次々とシールドのようなものを展開して攻撃を防ぎ続けるシャムの姿があった。
『シャム!守ってばかりじゃ勝てないわよ!』
『お姉ちゃん!そんなこと言っても!』
いつの間にか手に鎌を持って変身した姿で宙に浮く小夏。質問したいことがいくらでもあると言うような顔で誠を見つめているカウラにどう説明したら良いかを考えながら画面に目を移した。