突然魔法少女? 94
ランの右の握りこぶしが掲げられた場面が転換して夜のような光景になった。懐中電灯を照らしながら山道を歩くシャムと小夏が見える。
『魔法を使っちゃ駄目なの?』
肩に乗った手のひらサイズの小熊のグリンにたずねるシャム。
『だーめ!勝負を決めるのは魔法の力だけじゃないんだ。瞬間的な判断力や機転、他にも動物的勘や忍耐力。まだまだ魔法以外に学ばなければならないことが一杯あるんだよ』
『うーん。アタシは難しいことは分からないけど……』
そう言って苦笑いを浮かべるシャム。そのシャムの言葉に画面の前に居る誠達が一斉に頷いた。シャムが難しいことがわからないのはいつものこと、そう言う思いが画面の前の人々に同じ行動を取らせることになった。
『つまり私達自身が強くならなきゃ駄目ってことね』
『そう言うこと。それにこの森の波動は僕が居た魔法の森の波動と似ているんだ。きっと修行には最適の場所だよ!』
そう言いながら二人は山道を進む。そして画面が切り替わり、夜中だと言うのにサングラスをかけた大男が映し出される。
「あ、明石中佐ですね。来てるんですか?」
蛍光オレンジのベストに手に猟銃を持った明石清海中佐の姿がアップで映る。
「ああ、何でも管理部の提出資料の確認に来たらしいんだがアイシャに捕まってな」
カウラの言葉に納得しながら誠は画面の中の明石を見ていた。
『この気配……』
そう明石が言うとすぐに画面は広場に出たシャムと小夏が映し出される。
『じゃあいいかい。まず目を閉じてごらん』
グリンの言葉でシャムと小夏は目を閉じる。シャムの視界のイメージ。真っ暗な世界。
『君達には見えるはずだよ、この森の姿が。そして生き物達の波動が!』
その言葉が終わるとシャムの視界を表現していた真っ暗な画面が白く光り始める。光の渦は木の形、草の形、鳥の形、獣達の形。さまざまに変化を遂げながら中心で微笑む全裸のシャムの心のイメージを取り巻くように流れていく。
『そう!そうすれば分かるはずだよ。そしてそうすれば生き物達の力が君達に注がれるんだ』
グリンの言葉とともにシャムの姿はさまざまな森の生き物達に取り巻かれるようにして森の上空へと飛び立っていく。
『見つけたぞ!熊っころとおまけ共!』
突然響いたのは要の声だった。現実に引き戻されたシャムと小夏はもみの木の巨木の上に立つ女性の影に目を向けた。それはランではなく胸の膨らみを強調するような衣装を纏った魔女の姿だった。
「ああっお姉さま!」
画面の中で月の光に照らされながらもみの木の枝に立って唇を舐め上げるタレ目の女幹部の表情が拡大されていた。そんな悪女の表情を作る要を楓が頬を染めて見入っている。
「やっぱり鞭ですか、武器は」
渡辺も興奮気味に画面に吸いつけられる。カウラと誠は二人の上昇していくテンションについていけないというように顔を見合わせた。
「おい、あいつ嫌だとか言ってた割にはのりが良いな」
そう言って茶を啜る嵯峨。春子は空になった嵯峨の湯飲みに緑茶を注ぎながら様子を伺っていた。