突然魔法少女? 93
画面が闇に閉ざされる。おはぎに夢中な楓がちらりと誠の端末の画面を見たが何も映っていないのですぐに視線をおはぎに持っていく。そんな彼女におはぎを手渡す渡辺。そして二人の女性士官はしっかりと見つめあい沈黙した。その有様を見てため息をつく要。彼女はおはぎに手を伸ばすこともなく、自分の机から追い出されつつある誠の肩を軽く叩いて暇を潰していた。
端末からは何か争うような声が途切れ途切れに聞こえてくる。それがランと明華の怒鳴りあいでそれを吉田とアイシャがなだめているものだとわかると誠も大きなため息をついた。
『それじゃあEの23番……スタート!』
ようやく落ち着いたようでアイシャの声がかかる。画面には青空が広がる町の公園の街頭の上に立ったランがゆっくりと顔を上げて微笑む光景が映される。
『これは……久々に暴れられそうだな』
そしてにんまりと笑うランに要が目を向ける。
「怖えなこりゃ。ちびも拡大するとすごいことになるじゃねえか」
要は三つ目のおはぎに手を伸ばした。そこで部屋に入ってきたのがカウラだった。
「おい、西園寺。出番だぞ……隊長?」
「あ?俺が居るとまずいの?」
「いいえそう言うわけでなく……餡が口についてますけど……大丈夫ですか?」
「本当?ちょっとまって」
カウラに言われて手を口に持っていく嵯峨。そしてすぐにカウラも皆が誠の画面を見ていることに気づいた。そしてカウラは画面を見ている誠達がおはぎを手にしていることを確認するとそのまま重箱に手を伸ばした。
「出番ねえ、分かったよ。それで……」
「ごめんなさいね!」
要が立ち上がろうとするとお盆を持った春子が現れた。続いてきたアンの手にはポットが握られている。
「すみませんねえ。何から何まで……」
嵯峨の言葉ににこやかな笑顔を返すと春子は湯のみを並べていく。
「じゃあ行ってきまーす」
やる気の無い声を上げてそのまま部屋を出て行く要。
「ああ、要さんは出番?」
「まあそんなもんです」
湯飲みにお湯を注ぎながらカウラにたずねる春子。その隣ではお茶が入るのを待とうと手におはぎを握りながら待っている楓と渡辺の姿があった。
「それにしても便利ですね、東和は。こんなものを簡単に作れるなんて」
感心しながら画面を指差す楓。休憩を取っているようでおはぎを食べているアイシャとシャムの姿が映されている。
「ああ、あの簡易型のヴァーチャル視覚システムのこと?普通は手が出るレンタル料じゃ無いが吉田のコネでね。あいつは映画関係とかに知り合いが居るらしいから」
春子が置いた自分の湯飲みを手に取ると静かに茶を啜りながら嵯峨が答える。
「そうなんですか……。それにしてもこのお茶、良い香りですね。どこのですか?」
自分の濃い緑色の湯飲みを手に取った楓が誠にたずねた。
「確かこれは……」
「東海よ。惟基さんはあそこのお茶が好きだから」
誠をさえぎるようにして春子が答えた。楓は何回か頷くと茶を啜り始める。
「東海って遼南産ですか。隊長のコネかなんかでナンバルゲニア中尉がたくさん貰ってきた奴でしたっけ?」
そんな誠のあいまいな質問に呆れたような顔をする嵯峨。
「それは私が持ってきたんだけど……」
春子の言葉が誠に追い討ちをかける。誠は少しへこみながら美少女キャラが書かれたマグカップに入ったお茶を啜りつつ、画面が切り替わった自分の端末に目を移した。