突然魔法少女? 92
「ああ、神前先輩。僕が案内してきますから」
そう言って伸びをするとアンは自分より背の高い春子に向き直った。
「じゃあこちらへ」
「本当にごめんなさいね」
そう言ってアンに案内されて消えていく春子。
「隊長、無理しなくても良いですよ」
三つ目のおはぎに手を伸ばそうとする嵯峨に誠が声をかける。辛党で酒はいけても甘いものはからっきし駄目な嵯峨が安心したように手に付いたあんこをちかくのティッシュでぬぐう。
「おい、出てったのは……」
春子達と入れ違いに戻ってきた要が嵯峨の姿を見つけるとニヤニヤ笑いながら叔父である嵯峨に歩み寄っていく。
「おう、叔父貴も隅に置けねえな。どうせ調子に乗っておはぎ食いすぎたんだろ?」
要のタレ目の先、嵯峨の顔色は誠から見ても明らかに青ざめていた。
「本当に父上は……」
そう言いながら三つ目のおはぎを口に運ぶ楓。渡辺もいかにもおいしそうにおはぎを頬張る。
「で、どこまで進んだかな?」
そう言いながら要は誠の端末の画面に映し出されている明華とランの罵り合いに目を向けた。
「あ、まだ続いてるんですか……ってこんなに長くやる必要あるんですか?」
誠は未だに同じ場面が続いているのに呆れた。
『このちび!餓鬼!単細胞!』
『オメーだってタコの愛人じゃねーか!』
その会話は完全にそれぞれの現実での立場に対する個人攻撃に変わりつつある。
「おい、こんなの部外者に見せる気か?」
画面を指差しながら誠にたずねる要。
「いや、たぶんアドリブでどちらか本音を言っちゃって、それでエキサイトしてこうなったんじゃないですか?」
「それを止めねえとは……アイシャの奴」
要が時々見せる悪い笑みを浮かべていた。
『なんでそこで清海の話が出てくるのよ!』
『そっちだろ?アタシがあのくたびれた雑巾に気があるなんて嘘を言いだしやがったのは!』
「くたびれた雑巾……」
要はランの言葉を繰り返しながら口の周りのあんこをぬぐっている叔父、嵯峨惟基を見つめた。
「確かに父上を評するには良い言葉だな」
そう言って父を見上げる楓は頷く。
「なんだかこいつ等の悪口、このまま言ったら俺批判になるんじゃねえのか?」
嵯峨がそう言う中、画面の中の二人がさらに言葉をエスカレートしていく。
『カットー!隊長をいじめる企画じゃ無いですよ!二人とも!』
さすがに方向性がずれてきたことに気づいたアイシャが止めにかかる。
「なんだよ、アイシャ。もっと続けりゃいいのによ」
そう言いながら要は手にした二つ目のおはぎを口に放り込んだ。