突然魔法少女? 90
場面が変わる。画面は漆黒に支配されていた。両手を握り締めて、まじめに画面を見つめる楓と渡辺に圧倒されながら誠はのんびりと画面を見つめた。誠の背中に張り付こうとしたアンだが、きついカウラの視線を確認して少し離れて画面を覗き見ている。
画面に突然明かりがともされる。それは蝋燭の明かり。
「機械帝国なのに蝋燭って……」
さすがに飽きてきた誠だが、隣の楓達に押し付けられて椅子から立ち上がることができないでいた。
『メイリーン!機械魔女メイリーン!』
「あれ?何で僕の声が?」
確かにその声は楓の声だった。渡辺も不安そうに楓を見つめる。
「ああ、吉田さんのことだからどっかでサンプリングでもしたんじゃないですか?」
あっさりとそう言うと誠は画面に目を映す。
黒い人影の前でごてごてした甲冑と赤いマントを翻して頭を下げる凛々しい女性の姿が目に入る。
『は!王子。いかがなされました』
声の主は明らかに技術部部長許明華大佐のものだった。そして画面が切り替わり、青い筋がいくつも描かれた典型的な特撮モノの悪者メイクをしてほくそえむ明華の顔がアップで写る。
『余の覇道を妨げるものがまた生まれた。それも貴様が取り逃がした小熊のいる世界でだ……この始末、どうつける?』
誠はそんな楓の声を聞きながら隣で画面を注視している楓に目を移した。言葉遣いやしぐさはいつもの楓のような中性的な印象を感じてそこにもまた誠は萌えていた。
『確かにこの人なら女子高とかじゃ王子様扱いされるよな。さすがアイシャさんは目ざとい』
そんな妄想をしている誠に気づかずただひたすら画面にかじりつく楓。
『は!なんとしてもあの小熊を捕らえ、いずれは……』
必死に頭を下げる明華。楓の声の影だけの王子頷いている。
『へえ、そんなことが簡単にできるってのか?捕虜に逃げられた上にわざわざ逃げ帰ってきたオメーなんかによ』
突然の乱暴に響く少女の声。陰から現れたのは8才くらいの少女。赤いビキニだか鎧だか分からないコスチュームを着て、手にはライフルなのか槍なのかよく分からない得物を手にした少女に光が差す。そのどう見ても小学生低学年の背格好。そんな人物は隊には一人しか居なかった。
「クバルカ中佐……なんてかわいらしく……」
「あのーこれがかわいいんですか?」
先ほどこの部屋で文句をたれていたランが不敵な笑みを浮かべながら現れる。誠は耳には届かないとは思いながらすっかり自分の脇にへばりついて画面を覗き込んでいる楓にそう言ってみた。
『ほう、亡国の姫君の言葉はずいぶんと遠慮が無いものだな』
そう言ってそれまで悪の首領っぱい影に下げていた頭を上げると、皮肉をたっぷり浮かべた笑いでランを迎える明華。
「おっ!ここでも見れるのか?」
突然後ろから声をかけられてあわてて振り向く誠。そこには隊長の嵯峨がいつもの眠そうな表情で立っていた。
「ええ、まあ一応」
頭を掻く誠。嵯峨はそのままロナルドの開いている机に寄りかかると誠達の後ろに陣取ることを決めたように画面を見つめている。
「なんだかなあ」
誠はそのまま画面の中でお互いににらみ合う明華とランの姿を見ていた。