突然魔法少女? 9
「遅いですよ!クバルカ中佐!」
叫んでいるのはパーラだった。いつものがっちりとした四輪駆動車の窓からセミロングのピンクの髪を北から吹き降ろす冷たい風にさらしている。その遺伝子操作で作られた髪の色が彼女が普通の人間でないことを示している。
「また冬に水浴びて楽しいんですか?」
後部座席から顔を出す島田。その言葉にむっとする要だが、アイシャが肩に手を置いたので握ったこぶしをそのまま下ろす。
「何人乗れるんだ?この車」
広い後部座席を背伸びをして覗き込もうとするランだが、その120センチそこそこの身長では限界があった。
「一応八人乗りですけど?」
パーラの言葉に指を折るラン。
「パーラとサラ、それにアタシと小夏、その友達が二人。楓と渡辺……」
「俺は降りるんですか?」
後部座席から身を乗り出して島田が叫ぶ。
「お前のはあそこだろ?」
ランが指をさす先にはキムの軽自動車が止まっていて、すでにエダが助手席に座っていた。
「それなら私もそっち行くわね」
そう言って降りるサラ。だが島田は小さいキムの車の後部座席が気に入らないのか、しばらく恨めしそうにランを見つめた後、静かに車から降りる。
「残りはカウラの車だな。頼むわ。アタシ等は楓と渡辺が来るのを待ってるから」
そう言いながら明らかに高い車高の四輪駆動車のステップを無理のある大またで上がるラン。思わず笑いそうになった要を、その普通にしていても睨んでいるように見える眼で睨みつけた後、ランはそのまま後部座席にその小学生のような小さな体をうずめた。
「じゃあ……ってタオル確か持ってきてたよな、アイシャ」
手に車のキーを持っているカウラが髪の毛を絞っているアイシャに声をかける。
「ああ、持ってきてたわね。じゃあ急ぎましょう」
そう言うと小走りにカウラのスポーツカーを目指すアイシャ。
「西園寺さんも……」
誠が振り向こうとすると要は誠の制服の腕をつかんだ。
「誠……」
しばらく熱い視線で見つめてくる要に鼓動が早くなるのを感じる誠。だが、要はそのまま誠の制服の腕の部分を髪の毛のところまで引っ張ってくると、濡れた後ろ髪を拭き始めた。
「あのー」
「動くんじゃねえ。ちゃんと拭けねえだろ?」
誠は黙って上官の奇行を眺めていた。