突然魔法少女? 88
「良い奴ですね!グリンは!まったく……」
思わず右手を握り締め目を潤ませる楓。
「まったくです……すばらしい……」
同じく涙をぬぐう渡辺。二人の反応の異常さに思わず誠は要を見た。
「まああれだな。胡州は子供向けのアニメとか少ないからな」
「そんなこと無いんじゃないですか?『小坊主点丸』とかあるじゃないですか」
「なんだそれ?」
東和のおいてその想像の斜め上を行く演出でコアなファンに大人気の胡州アニメの名前を出しても要は食いつかないと踏んだ誠はそのまま画面に目を向けた。
『グリン君!』
シャムの声にピクリと手のひらサイズの熊が動いた。そのまま手足を動かし、自分が生きていることに気づくグリン。
『ごめんねシャム。どうやら魔力が何者かに吸収されているみたいなんだ』
小熊はそう言うと立ち上がってシャムを見つめる。
『でもそれじゃあ……』
不安そうに姉役の小夏と一緒に小熊を見つめるシャム。
『大丈夫。僕の見立てに間違いは無かったよ。見てごらん、君の姿を!』
二人は小夏のものらしい簡素な姿見に自分の姿を映す。
『えー!これかっけー!最高!グッド!イエーイ!』
そう言って何度も決めポーズをとり暴れ回るシャム。さすがの小夏もこれには驚いてシャムの頭の上に手を載せる。動けなくなったシャムがじたばたと暴れる様。誠は頷きながらそれを眺めていた。
『カットー!喜びすぎ!ってかそこ喜ぶところじゃない!』
跳ね回るシャムを怒鳴りつけるアイシャ。そのまま疲れたというように座り込む小夏。そして画面にモニターが開いてアイシャの顔が写る。
『そこは戸惑いながら姉妹で見詰め合う場面だって言ったでしょ?はい!やり直し!』
「馬鹿が!」
要はそう言うと立ち上がった。
「どうしたんですか?」
「ヤニ吸ってくる」
そう言って手にしたタバコの箱を見せる要。誠はすぐに画面に視線を戻した。
「ったくああいうのにしか興味ねえのかな……」
ポツリとつぶやいて出て行く要。誠がカウラを見ると、呆れたとでも言うようにため息をついている。
『わあ、なんで?これがもしかして……』
画面が切り替わり撮影が再開したようだった。要がいなくなったことを良いことに要と渡辺はさらに顔を突き出してくる。誠は少し椅子を下げるが、下げた分だけ二人はばっちりと誠の端末の画面の正面を占拠してしまった。
『そうだよ。君達は選ばれたんだ。愛と正義と平和を守る戦士に!』
グリンの声に顔をほころばせるシャムと小夏。
『じゃあおねえちゃんがキャラットサマーで私がキャラットシャムね』
『なによそれ』
本心から呆れたような表情で妹役のシャムを見つめる小夏。
『名前よ!無いと格好がつかないじゃん!そして二人で悪を倒すの!』
そう言って小夏の手を握り締めるシャム。それを見つめて無言で頷いている楓と渡辺に誠は明らかに違和感を感じたが、いつも楓の件で小突かれてばかりの誠は突っ込むのも怖いので手を出さないことを決めた。