突然魔法少女? 87
『じゃあ行きます!』
小熊は立ち上がると回りに魔方陣を展開する。三角の光の頂点にそれぞれシャムと小夏が引き込まれ光に包まれていく。
『念じてください。救いたい世界のことを!思ってください。守りたい人々のことを』
そんな小熊の言葉に誘われるようにして画面が光の中で回転するシャムの姿を捉えた。はじけるようにあまりにも庶民的小学生姿だったシャムの服が消えていく。
「あのさあ、神前。なんでいつもこういう時に裸になるんだ?」
画面に集中していた誠と頭を軽く小突きながらたずねてくる要。しかし誠は画面に集中して上の空で頷くだけ。それを見た要はカウラを見るが、カウラは係わり合いになりたくないとでも言うようにキーボードを叩き続けていた。
『カラード、サラード、イラード……力よ!集え!』
シャムの叫び声に誠は視線を画面にさらに顔を突き出す。そしてさすがに無視するのも限界に来た誠は要の質問にはそのままの格好で答えた。
「それは視聴者サービスって言うか……なんとなくかわいらしいと言うか……」
「このロリコンめ!」
要がそう言って誠をはたいた目の前で、今度は白いニーソックスとメタリックな靴がシャムのか細い足を包んだ。そしてそのまま腰に広がった白い布のようなものは光を振りまきながらシャムの下半身を覆い、赤い飾りの入ったロングスカートに変わる。
「あれ?神前の絵と比べるとかなり飾りが少なくないか?」
そんな要の突っ込みを無視して画面をじっと見つめている誠。そのまま上半身を光が包むと胸のあたりでリボンのようなものが浮かび、それを中心にぴっちりと体を包むアンダーウェアにシャムが覆われる。そして次の瞬間には目の前に浮かんだ杖を手にしたシャムがくるくるとバトンの要領でこれを回すと、清潔感のある白に赤い刺繍に飾られたワンピースをまとってポーズをとっていた。
「いい加減無視すんなよな……このポーズの意味はなんなんだ?」
「お約束です!」
力強くこぶしを掲げてそう叫ぶ誠に思わず一歩引く要。続いて画面の中では今度は小夏の変身が行われていた。同じように服がはじけて代わりに青を基調としたドレスとカマのような先を持った杖を振って同じくポーズをとる小夏。
「なんだよ、あの餓鬼には変身呪文は無しか?」
「おかしいですね、アイシャさんの台本では変身呪文は二人とも無かったはずですが……」
「オメエの突っ込みどころはわかんねえな」
呆れたようにそう言うと要も画面を見つめた。魔方陣が消え、それぞれのコスチュームを身にまとった二人がその自分の姿を確認するように見つめている。
『これであなた達は立派な魔法少女で……』
そう言って倒れる小熊。
「おい、ここで死んじゃうのか?どうすんだよこれから!投げっぱなしか?」
「いちいちうるさいですよ。要お姉さま」
そんな声に驚いて要は楓を見てみた。楓と渡辺はまじめな顔をして画面に釘付けになっていた。
「おい、楓……」
「静かに!」
楓に注意されて仕方なく画面に目を移す要。その目の前では光を放っている小熊の姿が映し出されていた。次第にその光は収まり手のひらサイズに小さくなった小熊がそこにいた。
『グリン君!』
そう言ってシャムは小熊を両手で持ち上げた。ゆっくりと目を開く小熊。誠は再び楓と渡辺に目をやった。そしてそのあまりにも熱中して画面を見つめている二人に恐怖のようなものを感じながらまた画面に目をやった。