突然魔法少女? 82
誠の着ている服が寝巻きに変わる。
『このまま開始5分で着替えて食堂に下りる』
目の前にに指示が入る。昨日の渡された台本を思い出し、カウラの従兄で幼馴染と言う後付設定が加筆されたのを思い出しながら頭を掻いて見せた。
「凝りすぎでしょ、アイシャさん」
誠はそう言いながら東都の実家と同じ間取りの部屋のベッドから起き上がり、かつてのように箪笥から服を取り出す。
『誠ちゃん。ちゃんと着替えるのよ』
天の声のように響くのはアイシャの声だった。誠は急かされるようにジーンズをはいてTシャツを着込む。そしてそのまま誠の実家と同じ間取りの階段を下りて出番に向けて食堂の入り口で待機した。
視界に入る台本にはすでにシャムと小夏、そして嵯峨とリアナが食堂で食事をしていると言う設定が見えた。誠はそのままカウントが0になったのを確認して食堂に入った。
「お兄ちゃん遅いよ!」
そう言って叫ぶシャム。
「ごめんな、ちょっと……うわっ!」
誠は台詞を読むのをやめて叫んだ。シャム、小夏、嵯峨、リアナ。そして自分の席にも明らかに不審などんぶりが置かれていた。
嵯峨がその中身を摘み上げる。芋虫である。どんぶりの中にはうごめく芋虫がいっぱいに盛られていた。シャムは誠から関心をどんぶりに移すとそのまま一匹の芋虫を手にしてそのまま口に入れた。
「なんですか?これは!」
思わず絶叫する誠。だが、シャムも小夏も嵯峨もリアナも何も言わずにどんぶりの中の芋虫を手に取ると口に運んだ。
「なにって……リョウナンヘラクレスオオゾウムシの幼虫だろ?」
嵯峨は何事も無いように一匹の芋虫を取り出すと口に運んだ。
「これってグロテスクだけど癖になるんだよね」
同じよう口に二匹の芋虫を入れて頬張る小夏。リアナもシャムもおいしそうに食べ続ける。
「待った!タンマ!」
叫ぶ誠に目の前の彼の家族達が冷たい視線を投げてくる。
『どうしたの?誠ちゃん。何か不都合が……』
アイシャの明らかに笑いをこらえている声がさらに誠をいらだたせた。
「これ……マジっすか!勘弁してくださいよ!」
ほとんど半泣きで叫ぶ誠。
「仕方ないわね。でもこれをクリアーできないと出番が少なくなるわよ」
「出番はどうでもいいから!これ何とかしてください!」
どんぶりを指差す誠にテーブルに付く人々が冷たい視線を送る。
「予定通り誠ちゃんは寝坊と言うことで……カウラちゃん。B案で行きましょう。じゃあ誠ちゃんはしばらく休みね」
アイシャの言葉とともに視界が黒く染められる。誠はバイザーをはずしてそのまま生暖かい視線をにやけるアイシャに向けた。