突然魔法少女? 8
流麗な顎のラインから水を滴らせるアイシャ。山越えの乾いて冷たい冬の風が彼女を襲う。そしてその冷たい微笑は怒りの色に次第に変わっていった。
「シャムちゃん……これはなんのつもり?」
一語一語確かめるようにして話すアイシャ。基本的に怒ることの少ない彼女だが、闘争本能を強化された人工人間である彼女の怒りが爆発した時のことを知っている誠とカウラはいつでもこの場を離れる体制を整えた。
「水風船アタック!」
二月前、熟れた柿をアイシャに思い切り投げつけた時と同じような無邪気な表情で笑うシャム。さすがに青ざめていくアイシャの表情を察してシャムの袖をひく小夏。
「お仕置きなんだけど……要ちゃん風に縛って八幡宮のご神木に逆さに吊るすのと楓ちゃんが要にして欲しがっているみたいに棒でしばくのとどっちがいい?」
指を鳴らしながらシャムに歩み寄るアイシャ。ここまできてシャムもアイシャの怒りが本物だとわかってゆっくりと後ずさる。
「ああ、アイシャ。そいつの相手は頼むわ。行くぞ誠」
いつの間にかやってきていた要が誠の肩を叩く。カウラも納得したような表情でシャムとアイシャをおいて立ち去ろうとした。
「えい!」
シャムの叫び声と同時に要の背中で水風船が炸裂する。
「おい、こりゃあ!なんのつもりだ!」
突然の攻撃と背中にしみるような冷たい水。瞬間湯沸かし器の異名を持つ要。だが今回は隣に同志のアイシャがいることもあって彼女にしては珍しくじりじりとシャムとの距離をつめながら残忍な笑みを浮かべる。
「ちょっとこれは指導が必要ね」
「おお、珍しく意見があうじゃねえか」
振り向いて逃げようとするシャムの首を押さえつけた要。アイシャはすばやくシャムが手にしている水風船を叩き落す。
「あっ!」
「ったく糞餓鬼が!」
顔面をつかんで締め上げる要。アイシャはシャムの両脇を押さえ込んでくすぐる。
「死んじゃう!アタシ死んじゃう!」
笑いながら叫ぶシャム。その後ろの小夏達はじっとその様を見つめていた。
「おい、オメー等。いい加減遊んでないで吉田達の手伝いに行けよ」
小夏の友達に隠れていた小さい上司のランが声をかける。だが、要とアイシャはシャムへの制裁をとめるつもりは無い様だった。
「仕方ねーなあ。カウラ、神前。行くぞ」
そう言うとカウラと誠の前に立って参道を下っていくラン。
「おい!勝手に仕切るんじゃねえよ!」
シャムをしっかりとヘッドロックで締め上げながら要が叫ぶ。
「かまうからつけあがるんだ。無視しろ、無視」
そう言いながら立ち去ろうとするラン。要とアイシャは顔を見合わせるとシャムを放り出してラン達に向かって走り出した。