突然魔法少女? 75
じっと雑草を抜いてはそれを観察しているカウラ。そんな彼女に鍵を渡してくれと頼もうと近づく誠が彼女の手が口に伸びるのを見つけた。
「カウラさん!そんなの食べないでください!」
そのまま駆け寄ってカウラの手にあるぺんぺん草を叩き落す。突然の行為にびっくりしたように誠を見つけたカウラはそのまま誠の胸に抱きついた。
「まことー!まことー」
叫びながら強く抱きしめるカウラ。彼女は力の加減を忘れたように思い切り誠を抱きしめる。まるでサバ折りを食らったように背骨を締め上げるカウラの抱擁に誠は息もからがら、代行業者の金髪の青年と並んでやってきた要に助けを求めるように見上げた。
「いいご身分だな、神前」
そう言って笑うと、要はカウラを止めもせずにカウラのジャケットのポケットに手を突っ込んで車の鍵を探り当てる。
「じゃあ、オメエ等そこでいちゃついてろ。アタシは帰るから」
そのまま立ち去ろうとする要。彼女なら本当にこのまま帰りかねないと知った誠はしがみつくカウラを引き剥がそうとした。
「いやなのら!はなれないのら!」
暴れるカウラ。彼女が今のように本当に酔っ払うと幼児退行することは知っていたが、今日のそれは一段とひどいと思いながらなだめにかかる誠。
「おい!乗るのか乗らないのかはっきりしろよ!」
カウラのスポーツカーの助手席から顔を出す要。
「そんなこと言って……」
急にカウラの抱擁の力が抜けていく。見下ろす誠の腕の中でカウラは寝息を立てていた。
「ったく便利な奴だ。神前、とりあえず運んで来い」
苦笑いを浮かべる要に言われて誠はカウラを抱き上げた。細身の彼女を抱えてそのまま車の助手席に向かう。
「本当に寝てるな、こいつ」
渋い表情の要が助手席のシートを持ち上げて後部座席に眠るカウラを運び込んだ。
「お前が隣にいてやれよ」
そう言って要は誠も後部座席に押し込んだ。そしてそのまま有無を言わせず助手席に座る要。
「運ちゃん頼むわ」
そう言って金髪の青年に声をかける。その声が沈うつな調子なのが気になる誠だがどうすることもできなかった。カウラは寝息を立てている。引き締まった太ももが誠の足に押し付けられる。助手席で外を見つめている要の横顔が誠にも見えた。時々、彼女が見せる憂鬱そうな面差し。何も言えずに誠はそれを見つめていた。
「大丈夫なんですか、あの方は?」
さすがに気になったのか金髪の運転手が誠に尋ねてくる。
「ええ、いつもこうですから……」
そう答える誠にあわせるように頷く要。だが、いつもならここでマシンガントークでカウラをこき下ろす要がそのまま外を流れていく町並みに目を向けて黙り込んでしまう。気まずい雰囲気に金髪の運転手の顔に不安が見て取れて誠はひたすら申し訳ないような気持ちで早く寮に着くことだけを祈っていた。