突然魔法少女? 72
そんなリラックスしていた三人は突然厨房から声が聞こえてそちらに視線を向けた。
「ジャーン!マジックプリンセス、キラットシャム!」
「同じく!キラットサマー……」
小夏の名乗りに素に戻ったシャムが声をかける。
「小夏ちゃん!元気を出して!……それじゃあ!」
「オメエ等、何しに来た?」
ポーズをとるシャムと小夏に冷めた視線を送る要。シャムと小夏は誠がデザインし、運行部で製作した衣装を着込んで立っている。
「いっそのことそのままその格好で暮らしてみたらどうだ?」
呆れたようにカウラがつぶやく。二人の冷めた反応にうつむくシャム。誠は仕方なく拍手をすることにした。
「馬鹿!こいつが図に乗るだろ?」
要の言葉通りすぐに復活したシャムが小走りで厨房に戻る。そして彼女は袋を持って誠の前に立った。
「はい、これ誠ちゃんの分!」
無垢な目を向けるシャムを誠はあんぐりと口を開いたまま見つめていた。
「はい、神前。それ着て踊れ」
ざまあ見ろと言うような笑みを浮かべながら今度はウォッカの隣に置かれたラム酒をグラスに注ぐ要。カウラも自業自得だというような視線を誠に送ってくる。
「ナンバルゲニア中尉、ちょっと僕は……」
「私もあのデザインは無いと思うのよねえ」
立ち上がった誠の背後からの声に翻ってみればそこには小夏の母、家村春子がいつものように紫の小紋の留袖を着て立っていた。今回の作品で恐怖薔薇女と言った怪物役に勝手に決められた春子がため息をつく。
「あれは……その。アイシャさんが……」
「良いわよ、言ってみただけ。小夏もシャムちゃん暴れないで着替えてきなさい」
そう二人のワンパクに声をかけて厨房に消える春子。
「だから言ったんだよ。暴れるなって」
一人口の中の甘い酒を楽しむ要。そんな彼女にシャムが頬を膨らませた。
「そんなこと一言も言ってないよねー!」
誠に問いかけてくるシャムに頷いた誠の背中に要とカウラの視線を感じる。
「いいから着替えて来い」
「了解!」
いつものように要には反発してもカウラの言葉には素直に従う二人。明らかに気分を害したというように要は灰皿を隣のテーブルから取ってくるとタバコに火をつけた。
「少しは周りを気にしたらどうだ?」
タバコの煙に眉をひそめるカウラの表情に機嫌を直す要。誠も要といれば受動喫煙になることを知っているが口が出せないでいた。
「でも、春子さんもよく引き受けたものだな、あのような役」
カウラの独り言を聞いた要がカウラの頭を引っ張る。抗議しようとしたカウラににんまりと笑った要は口を開いた。
「叔父貴の奥さん役ってのが良いんじゃねえの?」
カウラと誠は要の言葉に顔を見合わせた。