表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/160

突然魔法少女? 70

「オメエもさ……」 

 突然いつもの棘のあるような言葉の響きとは違う力の抜けた調子で要が話を切り出した。いつもならタレ目で馬鹿にしたように誠をにらみつけるはずの要が悲しそうに自分の手元を見つめている。

「どうせ、カウラやアイシャがいいんだろ?アタシなんか……」 

 誠はただ黙って一発一発の弾丸を見極めながらマガジンに装弾する要を見つめていた。人口筋肉の強化が進んでいる今、か細い女性のように作られている要の体はいかにも脆く儚げに見える。

「いいんだぜ、私みたいな作り物の体の持ち主なんかに関わるのはごめんなんだろ?それにオメエも知ってるだろうが非正規部隊の女工作員の仕事なんて……体を売って何ぼだ」 

 最後の言葉を飲み込んだ要は装弾を終えたマガジンを握った拳銃に叩き込んだ。そして誠をにごった目で見つめた。誠は配属直後に起きた『近藤事件』の後、隊の人間の素性についてネットで調べて見たことがあった。

 シャムは13年前の遼南内戦での輝かしい功績が目に付き、アイシャは8年前のゲルパルト独立戦争で今の大統領の属した部隊で戦果をあげて受勲していた。そんな中、吉田と要の情報はほとんど見つけることができなかった。吉田はネットを住処にしているような情報戦のスペシャリストである。彼の活動が吉田の手で情報操作がされているのもうなづけるので納得ができた。だが、要もそうだろうとあきらめ掛けていたとき、アングラサイトで彼女の情報を拾った。

 それを見つけたのは偶然だった。先輩の島田から聞かされたパスワードでランダムで再生していたアダルトサイトの一件の動画。そこに五、六人の怪しげな男にかこまれている女の姿があった。一人の男が画面を拡大しようと手をカメラに伸ばした瞬間、胸をさらけ出している女に手を伸ばした男が男が悲鳴を上げ、血しぶきが画面を覆った。

 返り血を浴びて画面に映し出される女の顔。それはどう見ても要だった。誰が何のためにその動画をサイトに乗せたのかはわからない。だが、5年前には胡州陸軍の特殊作戦集団の一員として東都にいたと言うことは要の口からも知らされていた。

 当時、胡州陸軍が遼南からの薬物や違法採掘資源の密輸ラインが寸断されたことで新たな活路として見出された南方の大陸ベルルカンからの物資ルートをめぐり裏社会の利権争いに介入してさまざまなシンジケートと抗争劇を繰り広げたことは誠もニュースで散々聞かされたものだった。

 そんな血に彩られた東都湾岸地区のシンジケート達の攻防、俗に言う『東都戦争』に要がかかわるとしたらあの動画のようなことを彼女がしていたと考えるほうが自然だった。

「おい!置いてくぞ」 

 ぼんやりと要の手の動きを目で追っていた誠を見下ろしながら要は残った拳銃弾を保管庫に入れて鍵をかけると声をかけた。自分の目を見ようとせず、そのまま先に隊舎に向かう要に続いて歩き始める。

 見ているとどこか消えてしまいそうな細い背中。いつもなら張り飛ばされる恐怖で緊張しながら歩く誠に彼女を支えてあげたいと言うような衝動が目覚めていた。

「西園寺さん」 

 しかし、今目の前にいる要が誠にとっての要のすべてだ。そう思って誠は声をかけた。

「なんだよ、意見でもする気か?」 

 歩みを止めることもなく要は歩き続ける。誠も早足でその後ろに続く。

「要さんは要さんでしょ?」 

 その誠の言葉に要は足を止めた。振り向いた要は何か言いたげに誠をにらみつけてくる。

「なんだ、気になる口調だな。文句でもあるのか?」 

 今度は確実に誠の目を見つめてじりじりと誠に近づいてくる要。そのまま誠の息のかかるところまで近づいた彼女はそのまま豊かな胸の前に腕組みして挑戦的な視線を誠に投げてくる。

「良いじゃないですか、要さんは要さんで」 

「なんだ?ずいぶん達観した物言いじゃねえか。確かにアタシはオメエみてえな日向を歩いてきた兵隊さんとは違うからな」 

「別に僕は……」 

 重苦しい空気が漂う。再び要は視線を落として制服のポケットからタバコとライターを取り出す。

 一瞬だけタレ目の要が誠に向けた視線がいつもの要の不遜なそれに戻っているのを見て誠は安心して微笑んだ。

「ああ、わあったよ!あいつ等とお友達をやればいいんだろ?ハイハイ!」 

 そう言いながらタバコをくわえて肩のラインで切りそろえられた黒い髪を掻き揚げる要。ようやくいつもの調子に戻った彼女に安堵しながら落ちていた石をグラウンドに蹴り上げる要の後姿を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ