突然魔法少女? 63
「アイシャいる?」
ドアを押し開けたのは小柄なナンバルゲニア・シャムラード中尉。いつものように満面の笑みの彼女の後ろにはシャムの飼い熊、グレゴリウス13世の巨体が見えた。
「なに?ちょっと忙しいんだけど、こいつのせいで」
「こいつのせい?全部自分で撒いた種だろ?」
怒りに震える要を指差しながらアイシャが立ち上がる。
「俊平が用事だって」
吉田俊平少佐が画像処理を担当するだろうと言うことは誠もわかっていた。演習の模擬画像の処理などを見て『この人はなんでうちにいるんだろう?』と思わせるほどの見事な再現画像を見せられて何度もまことはそう思った。
「ああ、じゃあ仕方ないわね。要ちゃん!あとでお話しましょうね」
ニヤニヤと笑いながら出て行くアイシャ。だが要はそのまま彼女を見送ると端末にかじりつく。
「そうか、吉田を使えばいいんだな」
そう言うと要はすぐに首筋のジャックにコードを差し込んで端末に繋げた。彼女の目の前ですさまじい勢いで画面が切り替わり始め、それにあわせてにやけた要の顔が緩んでいく。
「何をする気だ?」
カウラの言葉にようやく要は自分が抜けた表情をしていたことに気づいて口元から流れたよだれをぬぐった。
「こいつ、おそらく今回も吉田の監修を受けることになると思ってさ。そうなればすべての情報は電子化されているはずだろ?そうなればこっちも……」
「改竄で対抗するのか?西園寺にしては冴えたやり方だな」
カウラはそう言うとキャラクター設定の画像が映し出される画面を覗き込む。
「じゃあ、私はもう少し……」
自分の役のヒロインの姉の胸にカーソルを動かすカウラ。
「やっぱり胸が無いのが気になるのか?」
生ぬるい視線を要が向けるのを見て耳を真っ赤に染めるカウラ。
「違う!空手の名人と言う設定がとってつけたようだから、とりあえず習っている程度にしようと……人の話を聞け!」
ラフなTシャツ姿のカウラの画像の胸を増量する要。
「これくらいで良いか?ちなみにこれでもアタシより小さいわけだが」
そう言ってにんまり笑う要。誠はいたたまれない気分になってそのまま逃げ出そうとじりじり後ろに下がった。誠は左右を見回した。とりあえず彼に目を向けるものは誰もいない。誠はゆっくりと扉を開け、そろそろと抜け出そうとする。
「何してるの?誠ちゃん」
突然背中から声をかけられた。シャムがぼんやりと誠を見つめている。
「ああ、中尉。僕はちょっと居辛くて……」
「そうなんだ、でもそこ危ないよ」
突然頭に巨大な物体の打撃による衝撃を感じた瞬間、誠の視界は闇に閉ざされた。