突然魔法少女? 61
誠は目を疑った。
運行部のオフィスの中はほとんど高校時代の文化祭や大学時代の学園祭を髣髴とさせるような雰囲気だった。女性隊員ばかりの部屋の中では運び込まれた布や発砲スチロールの固まり、そしてダンボール箱が所狭しと並べられている。
誠はなんとなくこの状況の原因がわかった。
運行部部長の鈴木リアナ中佐を筆頭に副長のアイシャ・クラウゼ少佐や管制主任パーラ・ラビロフ中尉、通信主任サラ・ラビロフ少尉、操舵主任エダ・ラクール少尉など、彼女達は戦闘用の知識を植え付けられて作られた人造人間である。学生時代などは経験せずに脳に直接知識を刷り込まれたため学校などに通ったことの無い彼女達の暴走を止めるものなど誰もいなかった。
そんなハイテンションな運行部の一角、端末のモニターを凝視している要の姿があった。
「おい!神前!ちょっと面貸せ!」
そう言って乱暴な調子で手招きする要。仕方なく誠は彼女の覗いているモニターを見つめた。
その中にはいかにも特撮の悪の女幹部と言うメイクをした要の姿が立体で表示されている。
「ああ、吉田さんが作ったんですね。実によくできて……」
「おお、よくできててよかったな。原案考えたのテメエだろ?でもこれ……なんとかならなかったのか?」
背中でそう言う要の情けない表情を見てカウラが笑っている声が聞こえる。誠は画面から目を離すと要のタレ目を見ながら頭を掻いた。
「でもこれってアイシャさんの指示で描いただけで……」
誠の言葉に失望したように大きなため息をつく要。
「ああ、わかってるよ。わかっちゃいるんだが……この有様をどう思うよ」
そう言って要は手分けして布にしるしをつけたり、ダンボールを切ったりしている運用艦『高雄』ブリッジクルー達に目を向けた。要を監視するようにちらちらと目を向けながら小声でささやきあったり笑ったりしている様もまるで女子高生のような感じでさすがの誠も思わず引いていた。
「ああ、一応現物を作っておいたほうが面白いとかアイシャさんが言ってましたね。今年の冬のコミケの……」
「おい!じゃあまたアタシが売り子で借り出されるのか?しかもこの格好で!」
要がモニターを指差して叫ぶ。カウラはその様子がつぼに入ったと言うように腹を抱えて笑い始めた。
「でも僕もやるんじゃ……ほら、これ僕ですよ」
端末を操作すると今度は誠の変身した姿が映し出される。だが、フォローのつもりだったが、誠の姿は要の化け物のような要の姿に比べたら動きやすそうなタイツにマント。とりあえず常識の範疇で変装くらいのものと呼べるものだった。これは地雷を踏んだ。そう思いながら恐る恐る要を見上げる誠。
「おい、フォローにならねえじゃねえか!これぜんぜん普通だろ?あたしはこの格好なら豊川工場一周マラソンやってもいいが、あたしのあの格好は絶対誰にも見られたくないぞ」
「それは困るわね!」
誠の襟に手を伸ばそうとした要だが、その言葉に戸口に視線を走らせる。
アイシャが満面の笑みをたたえながら歩いてくる。何も言わず、そのまま要と誠が覗き込んでいるモニターを一瞥した後、そのままキーボードを叩き始めた。そしてそこに映し出されたのは典型的な女性の姿の怪物だった。ひどく哀愁を漂わせる怪人の姿を要がまじまじと見つめる。
「おい、アイシャ。それ誰がやるんだ?絶対断られるぞ」
要は諭すようにアイシャに語りかける。
「ああ、これはもう本人のOKとってあるのよ」
「もしかしてあまさき屋の女将さんですか?」
誠は恐る恐るそう言ってみた。その言葉に要ももう一度モニターをじっくりと見始めた。両手からは鞭のような蔓を生やし、緑色の甲冑のようなものを体に巻いて、さらに頭の上に薔薇の花のようなものを生やしている。
「おい、冗談だろ?小夏のかあちゃんがこれを受けたって……本人がOKしても小夏が断るだろ」
要はそう言うと再びこの怪人薔薇女と言った姿のコスチュームの画像をしげしげと眺めていた。