突然魔法少女? 6
「ちょっと!着替えますから止めてくださいよ!」
そう叫んだが、誠はアイシャよりも周りの整備員の様子が気になっていた。そこからは明らかに殺気を含んだ視線が注がれている。ようやく鎧を脱ぎ終えた明石も、その視線をどうにかしろと言うように眼を飛ばしてくる。
さすがに誠の眼を使っての哀願を聞き入れるようにしてアイシャが手を離す。誠は素早くワイシャツのボタンをかけ始めた。しかし、周りからの恫喝するような視線に手が震えていた。
「大丈夫か?神前」
小隊長らしく気を使うカウラだったが、その声が逆に周りの整備員達を刺激した。着替え終わって立ち去ろうとする隊員すらわざと殺気のこもった視線を送る為だけに突っ立っているのがわかる。
「おう!皆さんおそろいで」
そう言って現れたのはロナルド、岡部、フェデロのアメリカ海軍組。一緒にいるのはレベッカと薫だった。
「やっぱり神前はもてるなあ、うらやましいよ」
そう言いながら兜の紐に悪戦苦闘するフェデロ。岡部は慣れた手つきで大鎧を解体していく。
「それにしてもシンプソン中尉。君も鎧を着てみればよかったのに」
そう言いながら脱いだ兜を足元に置く岡部。
「レベッカさんはスタイル良すぎだからねえ。アイシャちゃんみたいに当世具足なら着れると思うんだけど」
薫はそう言いながらまずロナルドの鎧を脱がせていく。
「そういえばアタシも胸がきつくてねえ。良いなあカウラは体の凹凸が少なくて……」
そう言った要だが、いつもなら皮肉を飛ばすカウラが黙っているところで気づくべきだった。
「おー、言うじゃねーか。それにはアタシも当てはまるんだな?」
どう見ても8歳くらいに見える制服姿のランが立っている。その手にいつもどおり竹刀が握られていた。
「いえ、姐御。そう言う意味では……」
「じゃあどういう意味なのか言ってみろよ!」
ランの竹刀が要の足元を叩く。誠はうまいことそのタイミングを利用してすばやく上着を着込み、帽子をかぶった。
「じゃあ、クバルカ中佐。私達は先行ってますからその生意気な部下をボコっておいてください」
敬礼をしたアイシャが誠とカウラを引っ張って境内に歩き始める。その要の色気のあるタレ目が誠に助けを求めているような様子もあったが、満面に笑みを浮かべたアイシャは彼の手を引いてそのまま豆まきの会場に向かう観光客の群れに飛び込んだ。
「それにしても混みますねえ。なんか東都浅草寺より人手が多そうですよ」
アイシャの手が緩んだところで自分を落ち着かせるためにネクタイを直そうとしてやめた。人の波を逆流するのにはそんなことは後回しだった。そのまま三人は押し負けてそのまま道の端に追いやられて八幡宮の階段を下りていく。
階段が途切れ、広場に出た。ようやく安堵して誠はネクタイを直す。
「隊長の流鏑馬は去年も好評だったからな」
そう言ってようやく人ごみを抜け出して安心したというように笑うカウラ。
「しかし、今度のあれ。良かったんですか」
上着の襟が裏返しになっていたのに気づいた誠がそれを直しながらそう言った。カウラの笑いが引きつったものになり、そのままアイシャに視線が向いていた。