突然魔法少女? 59
「そう言えば……楓のお嬢ちゃんはどうした?」
ふとそう言ったランの言葉。楓の性別を超えた要への愛を知っているランがニヤニヤしながら要を見つめる。
「いや、あいつのことは忘れようぜ。どうせ第四小隊が射撃レンジで訓練中だからそれを見に行ったんだろ?」
そう言う要の声が震えている。カウラと誠は生暖かい視線で要を見つめた。
「ああ、楓ちゃんはサラ達と一緒にコスチュームを考えるんだって。誠君の原画だけじゃ分からないこともあるからって」
何気なく言ったシャムの言葉に反応してそれまでは台本を見るふりをしていた要が立ち上がる。
「どうしたんだ?運行の連中のところに顔を出すのか?」
冷や汗を流さんばかりの要をニヤニヤしながら見上げるカウラ。
「お前はいいよな、普通なキャラだし」
要はそう言うとランに目をやった。
誠は久しぶりに見る台本を読んで一息ついた。シャムがヒロインの魔法少女バトルもの。確かに誠の『萌え』に触れた作品であることは確かだった。機械帝国に滅ぼされようとする魔法の国の平和を取り戻すために戦う魔法少女役のシャムが活躍する話と言う設定はいかにもシャムが喜びそうなものだった。
そして彼女の憧れの大学生、神前寺誠一役の誠。彼の正体はピンチになると彼女の前に現れると言うと聞こえがいいが、明らかに身代わりにぼこぼこにされるかませ犬役でしかないのは間違いなかった。誠としてはアイシャの趣味からしてそうなることは予想していたので、別に不満も無かった。むしろアンとの男同士の愛に進展しないだけましだった。
問題は要とカウラの配役だった。
カウラの役は魔法少女姉妹のシャムと小夏の姉で誠の恋人の役だった。誠の設定ではアイシャがこの役をやると言うことでデザインした原画を描いたのだが、隊に来て車を降りたときに要がアイシャの首を絞めていたことから見て無理やり要がその役からアイシャを外させたのだろう。
そして要。彼女は敵機械帝国の尖兵の魔女と言う設定だった。しかも彼女はなぜか誠一に一目惚れするという無茶な展開。その唐突さに要は若干戸惑っていた。しかも初登場の時の衣装のデザインはかなりごてごてした服を着込むことになるので要は明らかに嫌がっていた。
「そうだ普通が一番だぞ、ベルガー。アタシは……なんだこの役」
ランがそう言うのも無理は無かった。彼女自身、誠の原画を見てライバルの魔法少女の役になることは覚悟していたようだった。しかし自分のどう見ても『少女』と言うより『幼女』にしか見えない体型を気にしているランにとっては、その心の傷にからしを塗りこむような配役は不愉快以外の何モノでもないのだろう。
「まあ、いいや。アタシはちょっと運行の連中に焼きいれてくるわ」
そう言って部屋を出ようとする要のまとう殺気に、誠とカウラはただならぬものを感じて立ち上がり手を伸ばす。
「穏やかにやれよ。あくまで穏便にだ」
「分かってるよ……ってなんで神前までいるんだ?」
「一応、デザインしたのは僕ですし」
そんな誠の言葉を聞いてヘッドロックをかける要。
「おう、じゃあ責任取るためについて来い。痛い格好だったらアタシは降りるからな」
そう言ってずるずると誠を引きずる要。
「西園寺!殺すんじゃねーぞ!」
気の抜けた調子でランが彼らを送り出す。そして三人が部屋を出て行くのを見てランは大きなため息をついた。