突然魔法少女? 55
「班長!お先いただいてます!」
「班長!サラさんの目玉焼き最高です!」
「班長!味噌汁の出汁が効いてて……、この味は神前の馬鹿には真似できないっす!」
整備班員の声にびくりと反応した島田。彼は入り口に置かれていた竹刀を握り締めるとそのまま部下達の頭を叩いて回る。叩かれても整備班員はニヤニヤした顔で島田を見あげるばかり。他の部署の隊員も食事を続ける振りをしながら顔を真っ赤にして竹刀を振り回す島田を面白そうに眺めていた。
「島田先輩大変ですねえ」
とりあえず整備班の隊員を全員竹刀で叩いた後の島田の肩に手を伸ばした誠だが、振り向いた島田の殺気だった目に思わずのけぞった。
「正人……迷惑だった?」
瞳に涙を浮かべていれば完璧だろうという姿でエプロンを手に持って島田を見上げるサラ。
「そ……んなこと無い……よ?」
そこまで言いかけた島田だが、思わず噴出した整備班員に手に取ったアルミの灰皿を投げつける。
「なんだよ、サラ。来てたのか?飯にするぞ、神前」
秋も深いというのに黒のタンクトップにジーンズと言う姿の要が頭を掻きながら現れる。彼女を見つけるとサラはすばやく要の手をとって潤んだ目で見つめた。
はじめは何が起きたのかわからない要だが、しくしくと泣きながらちらちらと島田を見つめるサラに少しばかり戸惑ったように島田に目をやった。
「おい、島田。なんかしたのか?」
一度は威厳を持ち直したかに見えた島田だが、そんな言葉と共に要のタレ目に見つめられてはすべては無駄だったと言うように手にしていた竹刀を入り口の元の位置に置いた。整備班員は小声で囁きあいながら上官である島田の萎れた様を生暖かい目で見つめている。
「まああの明華の姐御とタコ明石が婚約する世の中だ。別にテメエ等がくっつこうがアタシには関係無いしな。サラ、泣くなよ。あとで島田は締めとくから。まずは飯だ。出来ればこいつの分も」
そう言うと誠の手を引いて食堂のカウンターに向かう要。厨房にはサラとセットとでも言うように同じ運用艦『高雄』のブリッジクルーの火器管制主任のパーラと操舵士のエダが当然のように味噌汁と鯖の味噌煮を盛り付けていた。
「そう言えば、今日は第二小隊は非番でしたっけ?どうするんですかねえ」
今度は逆に要の足元をすくおうと島田が要に話を向ける。
「ああ、そうだな。今日はどうするか……なあ、神前」
エダから鯖の味噌煮を受け取ってトレーに乗せた要が誠を振り返る。誠はその揺れの大きさから要がブラジャーをしていないことに気づいて頬を赤らめた。
「僕は……一昨日冬コミの原稿も上げましたから予定は……」
「神前。いいのか?アイシャさんは今日出勤だぞ」
島田は誠を見つめている。その同情がこもった瞳に誠は少し戸惑った。
「そうですね。それが……!」
すぐに誠は気がついた。今日は第一小隊と第四小隊が待機任務。第三小隊が準待機で第二小隊は非番だった。運行部副長のアイシャと第一小隊の吉田とシャム。この組み合わせで映画の筋を決めるとなれば、当然非番明けの誠達第二小隊にとても飲めないような内容の台本が回ってくるのは確実だった。
「吉田さんとアイシャさん……最悪の組み合わせですね」
誠のその言葉に顔色を変えたのは要だった。手にしたトレーを近くのテーブルに置くとそのまま食堂を駆け足で出て行った。