突然魔法少女? 54
「勝ったって……何がです?」
誠の間抜けな質問に呆れるアイシャ。カウラもようやくジーンズと現在放映中の深夜枠の魔法少女のTシャツを着た誠の肩に手を乗せた。
「こいつのわがままが通ったってことだ」
「わがままなんて言わないの!これは夢よ!ドリームよ!」
そう言って大きく天に両手を広げ自分の紺色の携帯端末をかざしてみせるアイシャ。まだ誠は訳がわからず二枚目のシャツのボタンをいじる。
「夢って……?」
「私達は昨日なんで大騒ぎしたんだ?」
カウラに言われて誠は思い出した。アイシャのオリジナル魔法少女映画化計画に巻き込まれてキャラクターの絵を描きなぐった昨日を。そして合体ロボ推進派のシャムと吉田の連合と支持層を求めてあちらこちらのサーバーに進入を繰り返した島田達の戦いを。
「アレって本当だった……でも吉田さんがそう簡単には引かないと思うんですけど」
「お前はまだまだだな。あの人は極端に飽きっぽいんだ」
そう言いながらアイシャの端末を奪い取ったカウラが誠に見えるようにして画面を開く。そこには吉田の『飽きたからよろしく!』という言葉が踊っていた。
「本当に飽きっぽいんですね。でもなんで僕は要さんに蹴られたんですか?」
そう言ったとたんアイシャの目が輝く。同時にカウラの顔に影がさす。
「さっき要ちゃんが言ってたじゃないの。寝ぼけて誠ちゃんが要の胸を……」
「そんなことよりだ!貴様が今日の朝食当番だったろ!さっさと行け!」
カウラが顔を真っ赤にして突然そう言うとそのまま誠は部屋を追い出された。
「なんで……ここ僕の部屋なんですよ……」
そう言いながら未練タラタラで自分の部屋の扉から目を放すとそこには島田がいた。
「おはようございます?」
恐る恐る切り出す誠。誠達の東塔ではなく西塔の住人島田が目の前にいるのには訳があるに違いないと誠は思った。島田はこの寮の寮長である。お調子者だが締めるところは締めてかかる島田がこの状況をどう考えるか、誠はそれを考えると頭の中が真っ白になった。
「大変だな。お前も……」
島田は大きくため息をついてくるりと方向を変え、そのまま廊下を階段へと向かった。誠はとりあえず安堵したというように彼の後ろについて行った。
「ああ、アイシャさんが勝ったそうですよ、今度の自主制作映画」
そう言った誠にまったく無関心というように島田が階段を下りていく。
「そうなんだ……どうせ吉田さんが飽きたんだろ?執念深さじゃクラウゼ少佐に軍配が上がるのは見えてたからな」
降りていく島田。そこに香ばしい匂いが漂ってくるのに誠は気づいた。
「あの、朝食の準備。僕が当番でしたよね?」
誠の言葉に頭を掻く島田。
「おはよう!神前君!」
廊下をエプロン姿で駆け出してきたのはサラだった。思わず誠の頬がほころぶ。
「島田先輩、隅には置けないですね!」
島田は真っ赤な顔をして咳払いをしながら一階の食堂へと向かう。誠もニヤニヤしながら日ごろさんざんからかわれている島田に逆襲しようと彼に抱きついているサラを見ながらその後に続いた。