突然魔法少女? 50
「ったく何がグッジョブだよ……て!神前!」
要が叫んだのは無理も無いことだった。誠はビールをラッパ飲みしていた。驚いたカウラがそれを取り上げる。
「何考えてんだ!貴様は!」
ふらふらとカウラを見つめる誠。その目は完全に据わっていた。カウラも少しばかり引き気味に誠を見つめる。ランは誠に哀れみの視線を送っていた。気の弱い部下の最後の抵抗。ランにも誠の気持ちが痛いほど分かっていた。
「あーあ、誠ちゃんいつものストレスが出てきたのね」
「なんだ?ストレスって?」
アイシャは同じようにラム酒をラッパ飲みしている要を見つめてため息をつく。
「なんだよ、そのため息は。アタシになんか文句あるのか?」
「文句ならここにいる全員があるんじゃねーのか?」
開き直る要に突き刺さるようなランの一言。要は周りに助けを求めるが、いつもは彼女の言うことにはすべてに賛成する楓もアンの介抱をしながら責める様な視線を送ってくる。
「ああ、いいもんね!私切れちゃったもんね!神前!ラッパ飲みするならこっちを使え!」
そう言うと要は手にしたラム酒を半開きの誠の口にねじ込んだ。ばたばたと手を振って抵抗する誠だが、相手は軍用の義体のサイボーグである。次第に抵抗するのを止めて喉を鳴らして酒を飲み始めた。
「あっ、間接キッス!」
突然そう言ったのはカウラだった。意外な人物からの意外な一言にうろたえた要は瓶を誠の口から引き抜いた。そのまま目を回したように倒れこむ誠。その顔は真っ赤に染まり、瞳は焦点を定めることもできず、ふらふらとうごめいている。
「馬鹿野郎!神前を殺す気か?ちょっと起こせ!」
蛮行もここまで来るといじめだった。そう思ったランは手にしていたコップを置くと顔色を変えて誠に飛びついた。そしてそのまま口に手を突っ込んで酒を吐かせようとするが、誠は抵抗して口を開こうとしない。
「仕方ねーな。カウラ!水だ!飲ませて薄めろ!」
そう言われて飛び出していくカウラ。アイシャはすぐさま携帯端末で救急車の手配をしている。
「ったく西園寺!餓鬼かオメーは!」
「心配しすぎだよ。こいつはいつだって……」
「馬鹿!」
軽口を叩こうとした要の頬を叩いたのは真剣な顔のアイシャだった。
「本当にアンタと誠ちゃんじゃあ体のつくりが違うの分からないの?こんなに飲んだら普通は死んじゃうのよ!」
アイシャは要の手からほとんど酒の残っていないラム酒の瓶を取り上げた。
「このくらいで死ぬかよ……」
そう言った要だが、さすがに本気のアイシャの気迫に押されるようにしてそのまま座り込んだ。
「らいりょうぶれすよ!」
むっくりと誠が起き上がった。その瞳は完全に壊れた状態であることをしめしていた。
「ぜんぜん大丈夫には見えねーけど」
助け起こすラン。だが、誠の視界には彼女の姿は映っていなかった。誠はふらふらと体勢を立て直しながら立ち上がる。そして要とアイシャに向かってゆっくりと近づき始めた。